フクロウの出現とミステリーの朗報

お別れ前にミミズク像と比べてみたよ

 今日は朝から掃除。──来客があるからってことも、フクロウに荒らされたからってこともあるけれど、要は日頃から散らかってるんだよな。困ったもんだ。
 昨日の朝に暖炉から飛び込んできたフクロウは、おかげさまで近くの観光施設に保護されました。いろいろアドバイスしてくれた皆さん、ありがとうございます。
 似たようなことがそうそうあるとは思えないけれど、後学のためと記録のために、一通りの経緯を書き留めときます。


 広い世の中、建物の中に鳥が入ってくる例は少なくなかろうし、煙突に鳥が入り込んだって話も結構よく聞く。しかし、今まさに炎が燃えてる暖炉からフクロウが出現するなんて例はそうそうあるまい。──少なくとも僕は想像したこともなかったし、てっきり魔法学校から招待されたのかと思ってしまった。いや冗談でも何でもなくて、あまりに突拍子のない現実を前にすると頭の中には一気にファンタジー世界が広がるものらしい。
 そりゃまあ、うちの暖炉はチャンバーと煙突を通して外と繋がってはいるけれど、これまでも結構あけっぱなしだったのにスズメやシジュウカラさえ入ってこなかったんだもの。それがいきなり、ハトよりもカラスよりもでかいフクロウだもんなあ。煙突の太さはハンドボール程度だと思うし、フクロウの体型でそこを潜り抜けるのも大変だと思う。サンタクロースの存在を今なら信じてもいいぞって気分である。
 まあフクロウとしては煙突の噴出し口でのんびりしてたら煙にまかれて落っこちたってことなんだろうけど、意図的にくぐろうったって難しいと思う。そろそろ煙突火災の怖い季節になるけれど、フクロウがその羽で煙突掃除をしてくれたのならありがたいかぎりで、敬意と感謝を込めてそのフクロウには三太くんという名前をつけた。いやオスかメスかも分からないんだけどさ。


 思えば朝起きてくろべーの散歩に出かけようって時から屋根の上でカタカタって音がして、鳥でも止まってるのかなーってことには気づいてたのだ。帰宅してから朝食の卵スープをあっためようと思い、フックに飯盒をかけてチャンバーを開いて薪に火をつけて、炎が安定してからパソコンに向かってメールの返事を書いてた時のことだった。
 煙突の途中あたりでガサガサッと音がして、何だろうと振り向いた途端、暖炉から大きな影が出現した。煙と灰を巻き上げ、バサバサバサーッと音を立てながら室内に突入してきたのがフクロウだったのである。
 その瞬間、僕は「なんだなんだー!?」みたいな声を上げてたと思う。くろべーはソファーの上で初遭遇のフクロウをぽかーんと見上げていた。天井付近を飛んでいたフクロウはあちこちぶつかりながら旋回し、何故か僕めがけて突っ込んできた。
 思わず身を縮めたので肩から頭にかけてをかすめただけだったが、どーも僕の背中だか肩だかに止まりたかったらしい。その後、リビングから台所の給湯器煙突へ、台所から暖炉脇の壁の照明の上へ、階段から二階仕事部屋へと移動していったのだが、折りに触れて僕の肩をかすめてた気がする。襲い掛かる気はなかったんだろうけど、結構な迫力なんだよなーこれが。
 それで人馴れしてるのかなーって気がしたし、どうも飛び方がよたよたしてて二階までも休み休みじゃないと上がれなかったりしたので、誰かが飼ってる可能性と怪我してる可能性を考え、家から追い出すよりはどこかしかるべきところで保護してもらおうと考えた。まずは別荘地の管理事務所の始業を待って電話してペットにしてる家の有無を確認、それから鳥を飼育してる観光施設に電話して確認と相談って感じだったんだけど、観光施設一発目で親切なスタッフの方に当たったのはラッキーだった。
 その施設から逃げた鳥はいないとのことだったが、折り返し電話をくれた彼が保護してくれることになったのだ。最初は一日の業務を終えてからってことだったのだが、再び電話をくれて、弱ってるかどうか心配だから昼前に引き取りに来てくれるとのこと。鳥獣保護法とかがちょっと心配だったけど、これで専門家に任せられるとほっとした。
 やがてその飼育スタッフの方が、わざわざ山奥の我が家にまで車で駆けつけてくれた。彼によると、今年巣立ったばかりの若い鳥でもともと少し弱っていたのだろうとのこと。飼育には許可が必要なので飼うわけにはいかないが、ちゃんと飛べるようになるまで保護してから放鳥してくれるそうで、まずは社長に報告ってことでケータイで撮影&送信している。もともと一時保護は可能な施設らしいけど、それでも報告やら届出やらはきちんとやってるわけだ。気さくな応対といい迅速な対応といい、ありがたい存在だなーとしみじみ感謝。
 フクロウの三太くんについても、種類や年齢は一目見ただけで分かり、体調はちょっと触れば分かるってのはさすがに専門家。半袖&素手でひょいっと手を伸ばして大事に抱え、大きな段ボールに入れて担いで帰って行かれる姿が実にカッコいい。プロの知識と技術、何より鳥への愛情が感じられてすがすがしい想いだった。──実のところその観光施設は近場なのにまだ行ったことなかったんで、そのうちお礼&三太くんの様子を見に行ってみようと思います。


 それにしても、知性の象徴にして神様の使いといわれる鳥が炎の中から我が家に舞い込んできたんだって思うと、なんかいいことありそうな気がする。折りしも朝のメールチェックでは、『珊瑚朗先生無頼控』シリーズの新作『チェスセットの暗号』が、東京創元社のミステリー専門誌『ミステリーズ!』の十二月発売号に掲載されるって報せがきてたし。
 そういや、僕がこの安楽椅子ミステリーを書くことになったきっかけは、芦原すなおさんの『ミミズクとオリーブ』だったんだよね。タイムリーというかフクロウつながりというか、なんだか不思議な縁を感じてしまう。そういえば芦原さんにはメールで「昨晩うちの近所でフクロウだかミミズクだかが鳴いてました」なんて書いたもんだが、その時の声の主が三太くんだったのかもしれない。
 それから、ハリーポッターが間に挟まるとフクロウからチェスへの連想が繋がるけれど、チェス駒づくりが趣味の僕はチェスをテーマにした漫画原作の構想をあたためている(小説で書いてもいいけど絵的要素が強いので漫画にしたい)。漫画家の友達はいても漫画業界とはあまり繋がりがないのでどこにこの企画を持ち込むべきか分からなかったのだが……フクロウの三太くんの出現で、きっと何とかなると思えてきました。根拠はないけど、これがきっかけで何か突破口が見つかるに違いないのだ!