『少年サンダー』と「小川ゴールドエール」

takeuchimakoto2004-11-18

 散歩と朝食の後、コーヒーもって仕事部屋へ。
 そんですぐに仕事にかかればいいんだが、机に向かう前に寝椅子にもたれ、『少年サンダー』を読む。
 こないだ大須演芸場に入る時にいただいたこの本、仕事も放り出して読みふけるほど面白いのだ。雷門獅篭画伯製作で、体裁は漫画雑誌のパロディー同人誌のようだけど、シカゴ4コマが載ってるってだけじゃない。「モーニング」で読めなくなった『風とマンダラ』の続編『雷とマンダラ』が読めるってだけでもすごいことだとは思うが、漫画以外の活字の記事が素晴らしいのだ。
 獅篭が現在の師匠の小福師にインタビューした『ハグレ雷門物語』って記事では名古屋における落語の系譜が軽妙に語られ、『福助笑話史』というかつて中日新聞で連載された記事では大師匠の雷門福助の生涯が昭和史と共に描かれている。こないだ雷門祭りのトークコーナーに出演されてた記者の方が書いたものだが、この『福助笑話史』がまた名文。とにかく読んでるだけで楽しいのだ。
 たとえば、こないだ獅篭が演ってた『勘定板』は、故・福助の得意ネタだったことと談志全集に入ってることでかろうじて記憶されてるネタらしい(無知な僕はもちろん知らなかったしうちの落語事典にゃ載ってない)。『福助笑話史』には若き日の談志が福助師の元に教わりに来たなんて逸話が書かれており、今じゃあ談志に破門された獅篭がそのネタで爆笑を誘ってるのだ。一つのネタが脈々と受け継がれてるわけで、それ自体が数奇な物語だ。
 で、その『勘定板』がどんな内容かっていやあ、実に馬鹿馬鹿しくも楽しい勘違い話である。今のお笑いブームでアンジャッシュがやってるようなネタが、何十年も前に遥かに洗練された形で完成してたわけだ。かつてNHKのオンエアバトルで談志がアンジャッシュを認めた背景にも、この『勘定板』があったのかもしれない。
 こういうのが眠ってるあたりが伝統芸の懐の深さなんだろうし、『福助笑話史』も今回のために中日新聞のデーターベースから発掘された記事らしい。そこらの芸道物語じゃあ太刀打ちできないほどの読み物が埋もれてたってんだから贅沢な話である。それをこうして世に出したというだけでも、獅篭&幸福の雷門コンビは讃えられるべきではなかろーか。
 この『少年サンダー』、コミケとかで500円で売るなんて話だった。只で貰った僕が言うのも何だが、これが500円じゃあ安すぎる。落語ファンならこれは買いです。資料的価値と娯楽的価値が詰まったこの一冊を読まないなんて許せない。いや僕なんぞが許せなくたって誰も困りはしませんが……

 なーんてことを思いつつ楽しく読んでると、玄関でチャイムの音がした。
 出てみるとクール便の配達で、こないだネットで注文した地ビールが届いたのだ。
 といっても、今回取り寄せた小川町の麦雑穀工房マイクロブルワリーってところの製品は、表示の上では「ビール」じゃなくて「発泡酒」ってことになっている。ああそれじゃあ麦芽含有率が低いのかなと思うとそんなことはなく、ラベルにもでーんと「麦芽100%」と書いてある。発芽前の麦を使った「麦100%」ではなく、ちゃんと麦芽100%なのに「発泡酒」なのである。
 僕はしばらく前からビール小説の執筆のためにいろいろ調べてるんだけど、日本の酒税制度における「ビール」と「発泡酒」の区分けってのは無茶苦茶である。麦芽含有率や製法でもって一応の決まりはあるっつっても飲む側にしたら何の関係もないし、その一応の決まりだって税金せしめるためなら平気で変更されるのだ。製造免許には「ビール免許」と「発泡酒免許」があって税率や製造量に違いが出るが、やり方によっては麦芽100%の「発泡酒」も造れるし、「発泡酒免許」で「ビール」を造ってる人だっているのである。
 なんじゃそりゃあと思わずにはいられないが、だからこそ面白いとも言えるわけで、だからこうして麦芽100%の「発泡酒」を取り寄せてみたのだ。知識だけ身につけたって飲んでみなきゃ納得できない。ほんとは小川町まで行きたいのだが、なかなか都合つかんのでお取り寄せなのだ。
 さすがに日中は仕事や用事がるので我慢して、夕方に散歩と入浴を済ませてからそれいけとばかりに「小川ゴールドエール」の栓を抜く。
 途端に、なんとも芳しい香りが漂った。ビール好きのくろべーまでいろめきたつような芳香である。ここのビールはドライホップ製法なんだそうだが、そのせいか明らかに香りが立ってるのだ。こりゃいいやとばかりに飲んでみると、香りばかりじゃなくてボディにもしっかりとした味わいがある。後味もすっきり心地よく、文句のつけようのないビールである。
 それではとレッドエールや高濃度エールを飲んでみると、どちらも実にしっかりした味わい。そもそもビールは瓶詰めに向かないってことで工房で樽から飲むほうが美味いそうだが、瓶でこれなら樽はどれほど美味いんだろうと思わせる。値段は1本400円だそうだが、これが400円じゃあ安すぎる。ビールファンならこれは買いです。この一本を飲まないなんて許せない。いや僕なんぞが許せなくたって誰も困りはしませんが……
風とマンダラ 4 (モーニングワイドコミックス)