ハットリバーの王様と記念のアイテム

takeuchimakoto2005-02-26

 ついに、謎のハットリバー王国に辿りついた。
 パースで過ごす最後の一週間で来ようとは思ってたものの、実際に来れるかどうかは微妙だった。長距離バスで移動したのでは日程的に無理なことが分かったり、現地で個人的にドライバーを探そうとしたらドタキャン的に話が流れたりといろいろ大変だったのだ。
 どうにかこっちに向けて旅立つ事はできたものの、わりに大変な旅ではあった。巨大な砂山を滑り降りたり巨大渓谷の谷底ですっ転んだり太古の岩石生物やイルカと出会ったりしながらどーにか辿りついたのだ。要は観光ついでに遊んでるじゃねえかと言われればそのとーりなんですけど。


 そして出会ったハットリバー王国の王様、プリンス・レナード氏は実に愉快な人物だった。教養と洒落っけに溢れた爺さんで、見事な話術でもって自らの王国を訪れた旅人を笑わせる好人物でもあった。
 一見したところはただの田舎の農夫だし、実際にその通りでもあるのだけれど、この人が35年前に天下のオーストラリア連邦相手に喧嘩を売って勝手に独立した現代の僭王なのかーと思うと感動すら覚える。だいたい35年も洒落を貫くなんて並のことじゃないではないか。
 元はといえば、西オーストラリア州政府が小麦農場に対して無茶な税金をかけたのがきっかけだったのだが、それに異を唱えたレナード氏は法の横暴に怒ったあまり州政府や連邦政府に戦いを挑んだ。話はオーストラリアの元首でもあるエリザベス女王にまで及び、キャスリー家の農場はオーストラリアから独立して州とか公国とかに相当するProvinceって名称でもって呼ばれることになったのである。(だから「王国」と呼んでいいのか微妙なんだけど日本ではその名称が定着しているようだ。「ハットリバー公国」とでも呼んだ方がジオン公国みたいで格好いいのにね)
 もちろん州政府や連邦政府は彼の独立を認めてないけれど、実際に彼は税金を払ってないし、噂を聞いて世界中から集まってきた旅人を迎えて見事に観光立国している。独立国を称するってのは一昔前に日本でも流行った洒落みたいなもんだけど(井上ひさし吉里吉里国とか畑正憲のムツゴロウ王国とか)、その洒落を現実レベルで徹底させて35年間もつらぬき通すってのはやはり大したものである。吉里吉里人動物王国オフィシャルハンドブック (ムツゴロウとゆかいな仲間たちシリーズ)
 世界中から集まってくる旅人を案内する彼の話術も見事なもので、ふと薬師寺の坊さんを思い出してしまった。奥さん(というか女王様というか)と共にあれこれ案内してくれたんだけど、王様のギャグに奥さんが笑ってる様は林家ぺーぱー夫妻みたいである。田舎の観光地の土産物屋さんが夫婦芸人だったらこんな感じかもしれないなーと思いつつ、王国内のスーベニアショップやポストオフィスでいろいろ記念品を買わせていただいた。


 国内には教会やちょっとした博物館や美術館みたいなスペースもあり、なんだかんだで1時間くらいは王国内を案内してもらっただろうか。それじゃあありがとうございましたとお礼を言っての帰りぎわ、女王様が王様にそっと耳打ちして1冊の本を手渡した。
 何かと思えば、ハットリバー王国の歴史書というか、プリンス・レナード氏の一代記である。おそらく著者は彼自身だと思うんだけど、その王様が僕に向かって直接その本を手渡してくれた。「ほれ、お前さんの執筆の参考にするといい」って感じの気楽な口調でプレゼントしてくれたのだ。
 事前に王様にメールして取材を頼んだり(90歳近い彼は数学者でもあってパソコンも使いこなしてるらしい)、おみやげとして日本の雑誌に載った彼の記事のコピーを持参して女王様に進呈したりっておかげではあるのだけれど、これには感動してしまった。なにしろ一国の王様からその国の歴史書を授かったのである。こんな体験、そうそうできるもんではない。
 異国を旅して艱難辛苦を乗り越え、ついに辿りついた王国で授かった幻の書物−−なんていうと大げさだけど、こういうのって騎士道物語っぽくてカッチョいい気がする。実際の資料的な価値も高いし、物書きとして何よりの記念となった1冊であった。