競作の短編と波平の名言

takeuchimakoto2005-11-13

 天気予報では気持ちいい秋晴れになると言ってたが、うちのあたりは曇りがちだった気がする。まあ一日家ごもりの日だったので、天気はよくない方が誘惑は少ない。くろべーの自転車散歩以外は家事と仕事に精を出す。
 仕事で取り組んでたのはWEBダ・ヴィンチ用の短編小説。昨日の朝に構想がまとまってネットで資料調査をしつつ書いてったのだが、今日の晩飯前には第一稿が書き上がった。依頼されてから考える時間はたっぷりあったし、枚数が原稿用紙約30枚分と短いせいもあったのが、こんなにあっという間に書いたのは10年くらい前に書いた『スペースシップ』以来じゃなかろーか。
 偶然にも今回も宇宙がらみの話で、タイトルは『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』。「やさしい嘘」というテーマの依頼だったのだが(WEBダ・ヴィンチに掲載後にアンソロジー本になるそうだ)、こういうお題頂戴型の仕事はとても楽しい。こないだの村上春樹トリビュートでもそうだったけど、「ダ・ヴィンチ」からの依頼って企画自体が知的刺激になってる上にこちらのポジションをきちんと教えてもらえるのでとてもありがたい。誰かが「リクルート社員教育は死ぬほど過酷」とか言ってたのを聞いたことがあるけど、それを生き延びた人たちってやはりどこか違うってことだろうか。
 こういっちゃ何だが、依頼コンセプトを明確にできないまま、ただ書け書け言っていざ書くと「こういうものを期待してたわけではない」みたいなことを言い出す相手って意外と多いのだ。「依頼は曖昧、否定は明確」ってのがコンセプトなんじゃないかって思うほどだが、そのリスクを負うのは往々にして書き手側だし、そういうやり方に文句をつけようもんなら怒り出すって相手も少なくないのだ。ま、ただ書けといわれればポンと名作を書くのがプロなのだと言われればそれまでなんだけどね。


 なんてなことを思いつつ、執筆を終えてぼけーっとした頭でリビングに下りてテレビのスイッチを押したら「サザエさん」をやっていた。話の流れは全く分からなかったが、開口一番で波平さんが「小説家というのは特殊な仕事だからなあ」なんて言ってて、妙なシンクロニシティーにびっくりしつつも深く頷いてしまった。