『チャーリーとの旅』とくろべーとの午後

鼻を舐めてるのは雨粒があたったせいか

 このところ、のんびりと『チャーリーとの旅』の翻訳を進めている。
 秋に出すって言われてたのが版元の都合で年明け以降にズレるとのことなので、今まで以上に急ぐ必要がなくなったのだ。「〆切が追いかけてくる」ってのはよく聞くが、タケウチ&ポプラ社に関しては「〆切が逃げていく」ってパターンが多いようで……ま、少しでも読みやすい日本語になるようにと頭をひねりながら毎日ちょっとずつ訳すことにしている。
 変な話だけれど、小説を書く時のBGMはインストゥルメンタルじゃないと嫌なのに(日本語はもちろん外国語やハミングであっても人の声が耳につく)、翻訳の時は歌入りのBGMどころかラジオ番組のトークが流れてても全然気にならない。むしろ好んでそういうのを流してるし、ちょこちょこサボりつつゲームをしたり「村上朝日堂」のフォーラムを読んだりしながら作業してるのだ。自ら集中度を下げようとしてる気さえするんだが、これって何なんだろうなあ。


 朝から昼過ぎまで仕事して、午後はくろべーと車で外出。
 ほんとは午後から長編小説の手直しをする予定だったのだが、犬と旅するスタインベックさんの文章を訳してると、自分でも出かけたくなってくるのだ。昨日ウッシー&はた万次郎画伯が出演してるテレビ番組を見たせいもあり、くろべーとドライブしたいって衝動が高まってたのである。
 仕事を放り出して向かった先はドッグカフェで、アスパラ&ベーコンのペペロンチーノの昼食。一人&犬連れで食事のできるってことに加えて結構すいてるところが気に入ってる店なのだが、今日の午後はプードル・ダルメシアンジャックラッセルテリアと合計4匹の犬が終結して結構にぎやか。──まあ賑やかっつっても一番うるさいのはしつけのなってない黒犬の甘え鳴きだったのだが。
 午後はのんびりしようと思ってたけど店が混んできたので公園に移動。駐車場に停めた車の中でのんびりすることにした。
 くろべーは駐車した時点で散歩だ散歩だ浮かれてるが(最近は車を停める際のバックの音に反応して浮かれるようになった)、ポツポツ雨が降り出したので外へは出ない。ダッシュボードから野田知佑さんの文庫本を取り出し、シートをリクライニングさせて読書を楽しむ。雨がやむまで読書タイムで、くろべーはじれったそうに車内をうろうろしていた。


 それでふと思い出したのだが、僕が『チャーリーとの旅』を翻訳したいと思ったのは、まさにこういうシチュエーションで読みたいと思ったからだった。
 読みたかったのに絶版になってた『チャーリーとの旅』を図書館で取り寄せたものの、読み始めてすぐにこの本は自分で欲しいと思ったし、できれば文庫本で旅先に持っていきたくなったのだ。そんで翻訳ものの文庫レーベルの人にリクエストしてみたところ、その席に居合わせた方からポプラ社が版権をもってることを知らされ、そんならと自分を訳者に使ってくれと売り込んでみたのである。
 それでとんとん拍子に訳者デビューってことになった……なんて話をしてると、たまに「真面目に翻訳家を目指してる人から恨まれるぞ」なんて言われる。確かに、僕の英語能力はそういう人たちに比べてはるかに低かろうし、運や勢いに恵まれてる奴って傍から見ると腹立つもんなあ。
 んがしかし、僕だって翻訳者としてまるっきり無能力というわけではなく、とかく固くなりがちな英文和訳の文章を読みやすい形に仕立てるって技術は結構なもんだと周りの人も認めてくれている。──そんでふと思ったのだが、おそらく世の中には「英語は堪能だけどそれを訳した日本語の文章がまずくて翻訳家デビューができない人」ってのが結構いるんじゃなかろうか。そういう人と僕が組み、顔を付き合わせて英文和訳のセッションみたいな企画って面白そうな気がする。
 とりあえず互いの技術を教えあう時点で勉強にはなるだろうし、そのプロセス自体を本にしたら実践的で面白い読み物になるんじゃないかと思う。近所の人とだったら個人的な勉強としてやってみたいし、どっかにそんな企画をやらせてくれる版元ってないかなあ?
 ともあれ、鋭意訳出中の『チャーリーとの旅』の刊行が来年以降ってことは、うまくいって文庫になるとしてもさらに何年も先になる。僕の最初の願望はなかなか叶いそうもないけれど、くろべーが元気なうちに本になって文庫化されるように祈っておこう。