ニンジンとキュウリ

曲がるの?の顔

 午前中、雨のやんでるうちに買い出しに行くかーと車でショッピングモールへ。
 ぼけーっと走ってたら車線変更をミスっていつもと違う道から駐車場に入る。ぼけーっとしたまま正面入り口をくぐってモール内に入ろうとしたのだが。
 ふと、声をかけられた気がして足を止めた。あたりを見回すと近くのベンチで品のいい老婦人がこっちを向いてすいませんと声をかけてきた。
 聞けば、持病の糖尿病の低血糖の症状が出て動けなくなっちゃったんだそうな。咄嗟にどっかに抱えていけばいいのかと思ったが、何か食べればよくなるんだそうで、お弁当とお茶を買ってきてくれという。息も絶え絶えという感じで千円札を託され、慌ててスーパーのデリカコーナーへ。
 急いで買って戻ってきたら、さっきのおばあさんはベンチで横になっている。お釣りや弁当や割り箸やを渡しつつ、そんなにつらいなら帰りは僕の車で送りましょうかと申し出た。
 で、彼女が弁当を食べてる間に急いで僕自身の買い物。──かつて『真夏の島の夢』で糖尿病の発作で倒れた老人を助けるエピソードを書いたが、まさかこういう形で自ら体験することになるとは。


 送っていった後、せっかくだからお茶でも飲んでいってということになる。なんだか妙な展開だなーと思いつつ、血色のよくなったご婦人からどうぞどうぞと言われると断るわけにもいかない。
 4月に越してきたばかりだというきれいな家に招かれ、冷たい麦茶をいただきながら、彼女の身の上や糖尿病が恐いって話をいろいろうかがう。おそらく僕の体型からして心配になったのだろう、年に一度は検診を受けるべきだと諭され、帰る時にはニンジンジュースのボトルをお土産にいただいてしまった。
 帰宅すると玄関のチャイムが鳴り、出てみたら斜向かいの家のおばあちゃん。にゅっと2本のキュウリを突き出し、さっきとりたてのを御裾分けだそうな。
 七十代の女性二人から、三十分ほどの間にニンジンジュースともぎたてキュウリを貰う経験って、なかなかできるもんじゃないよなあ。