シニャックとスタインベック

『バルフルール』1931年作

 朝からバリバリ仕事。翻訳仕事の一日の目標量を昼過ぎにクリア。
 スタインベックの文章を訳すとき、ユーモアに飛んだセリフや出来事についての文章はとんとんとーんと訳せるんだが、深い思索に基づいた箇所とか自然科学の知識に裏打ちされた専門用語続出の箇所とかを訳す時には物凄く時間がかかる。一日の目標量を定めても内容によって雲泥の差があるわけで、今日はいっぱい片付けたいのに文章が難しいという難所であった。何とかクリアしたけども。
 なんで珍しく一心不乱に働いたかといえば、明日が連載エッセイの締め切りなのである。午後はその仕事に取り掛かり、あわよくば一日で20枚を仕上げちまおうとしたのだが……やっぱりちょっと無理だった。明日の朝に仕上げよう。


 ともあれ、頑張って働いてるご褒美のように、今日は嬉しいものが届いた。
 フランスで発行された、ポール・シニャックの油彩画のカタログである。日本で買うと高いので海外から取り寄せたのだ。フランス語はさっぱり分からんので自信はないが、多分シニャックが生涯に残した油絵を時系列的に全て網羅した作品録のはずである。全部カラーで載ってないのはちと残念だが、19世紀後半から20世紀前半に生きていた画家なので作品全てのデータと写真が残ってても不思議はないんだよな。
 この分厚い本のページをめくれば、シニャックの油彩作品であれば全てデータを確認できるのが嬉しい。たとえばこないだ買ったポスターは発売元も制作年代を把握してなかったもんだが1931年作と判明したし、個人蔵で画集や美術館で見られないデッサン画(妙な縁で見る機会に恵まれた)については1918年制作の「Vieux Port de Cannes」って油彩画のための習作だと類推できた。敬愛する画家についてこうやって系統だてて知ることができるってのは嬉しいものだ。
 他にも、自転車レースを描いたシニャック作品もあるんだなーとか、1931年作の『バルフルール』は日本の個人蔵らしいけど所有者は誰なんだろーとか、うちの仕事部屋に飾ってある複製画4作は現在すべて日本にあるらしいぞとか、いろいろ面白いことが多くて身もだえしそうなほど楽しい。でも問題は、僕みたいなシニャックファンが身の回りにいないのでそういう話ができる相手がいないってことなんだよなー。


 そうそう、シニャックファンでスタインベックファンなんて人にはいまだかつて巡り合ったことはないけれど。
 こうしてフランスの偉大な画家とアメリカの偉大な作家について調べていると、不思議なくらいに二人に共通点が多いことに気づく。どちらも熱血漢で理論派で海の男なんだけど、それは僕の中にそういう点に憧れる因子があるってことなんだろうか?