謎の足音と謎の屏風

「言語宰我子貢」ってのが気になるね

 朝から実に気持ちいい天気。風もなくて日差しがあったかい。
 散歩と朝食の後で庭に出て肉体労働。でかい丸太を鋸で切って台所下まで引きずり、一升瓶ケースとブロックで作った作業台でチェーンソー作業。日差しがあったかいので、長袖Tシャツ1枚って格好で働くのがちょうどいい。
 去年伐採しまくった木の供養もかねて、一通り切ったり割ったりして薪に加工しようと思ってるのだが、一汗かくまで働いてもまだ終わらない。切断はあと1回やって終わりそうだが、それを少し乾かしてから薪割りしてさらに乾燥して……となると、ほぼ一年がかりの作業になりそうだ。


 昼前に車で買出しへ。朝から働いたせいか妙に腹へって11時過ぎには定食屋に立ち寄って飯食っちゃったが、今日は大事な買い物があるのだ。
 昨夜のことだが、寝室の天井から妙な物音がしてうるさかった。ネズミでも駆け回ってるような足音なのだが、その音が家の中(天井裏や2階)からしてるのか、寝室の上の屋根からしてるのかがどーも判然としない。くろべーと共に音の元を確かめに2階に行ってみても気配はないし、だいたい日頃からネズミみたいなもんがいたらくろべーが興奮しておっかけそうだしなあ。
 それでも心配なので、とりあえず納戸と仕事部屋の隅のロフトあたりにネズミ捕りでも仕掛けてみることにした。今日は日用品にくわえてそれを買いに来たわけだが、ネズミ捕りってのは昔ながらの金網とかバネ仕掛けのよりもゴキブリホイホイ的な粘着テープが主流になってるんだね。知らなかった。
 で、買い物から帰って納戸に仕掛けようと思い、しまってある荷物をかきわけて屈みこんで棚の下をのぞいたところ……棚の最下段の奥で、壁の一部が出っ張ってるのに気がついた。一見すると壁と一体化して見えるが、よく見りゃ大きな古い木箱が置かれているのだ。子供の頃にルパンシリーズやマガークシリーズを読んで以来、こういう怪しい光景を見逃す習慣はないので、その木箱を引っ張り出してみることにした。
 木箱の大きさは畳より一回り小さいくらいで、出してみると大きな木箱の上に小さな木箱がのっている。まず小さい方を開けてみたらボロい掛け軸が入ってて、巻いてあるのをほどいてみると月と虎の絵が出てきた。しかしシミだらけの上にいかにも印刷っぽい質感だし絵の方も僕の趣味ではない。おまけに再び巻こうとしたら安っぽいプラスチックの軸の端がぽろっと落ちた。コントのオチみたいな崩壊の仕方にお宝の期待はあっけなく消え去り、なーんだと笑ったのだが。
 大きな木箱の方にはちゃんと箱書きがしてあって、中には大正六年に作られた屏風が入っているらしい。かれこれ100年近く昔となればお宝じゃないにしろ資料的な価値でもあるかもしれないし、達筆な箱書きの全てを読めないってのも妙に気にかかる。いったい何が出てくるんだろーとわくわくしながら中身を出してみると、これまたボロボロの屏風が出てきた。
 どんな絵だろうと思って広げてみたら、意外にも六幅の書が張ってある。浅学の身ではこの内容もまともに読めないのだが、「言語宰我子貢」って文章とか「樹庵」って署名とかが妙に気にかかる。まあこの家の前の持ち主が捨て置いてったくらいだから大した価値はないんだろーけど、いったい誰が何のために何と書いたのかは妙に気になる。──つうわけで、賢明なる諸兄の御解読&御鑑定お待ちしております。