ペンキの危機感とランチの小龍包

ここらは紫のツツジから咲く

 朝からハシゴで屋根に上る。──雨漏り予防を兼ねた屋根塗り作業の残りを片付けるのだ。
 うちの屋根は平仮名&片仮名の「ヘ」の文字のように、片方の斜面が長くて反対側が短い。こないだ長いほうは塗ったんだけど、短い方がまだなのでそっちに挑んだのである。
 んがしかし。ハシゴをかけるのは「ヘ」の字の右端だし、敷地自体が傾斜してるために右側と左側では体感高度がまるで違う。短い左側斜面から落っこちようもんならビルの三階から落っこちたくらいの衝撃がありそーである。
 一応、煙突にロープをつないで作業ベルトに結んで命綱にはしてあるが、果たして僕の体重を支えてくれるのかは落ちてみないと分からない。軽く命がけの気分でペンキ缶とハケとローラーとトレーを持ち、屋根に上って塗り始め……
 序盤から中盤まではよかったのだが、終盤になってペンキが尽きてきた上、うっかり塗ったばかりのとこに足をついてしまい、ぬるっと滑ってどてっとコケで、危うく転がり落ちるとこだった。とっさに手足を踏ん張ってなんとか持ちこたえたものの、久々に心の底から恐かった一瞬であった。
 おまけに、ちょうど手にしていたハケだかローラーだかからペンキがはね、顔に点々とペンキがついちまった。メガネのレンズまで汚れた時点で顔もひどいことになってるんだろーなとは思ったが、一人で屋根の上にいる間は確かめようはない。どーにか作業を終えて屋根を下り、風呂場で鏡を見た時にようやく自分の姿を笑うことができた。緑のホクロみたいに点々と斑模様な上、瞼や耳の穴までペンキで汚れてるのだ。石鹸で何度も洗ったけど、結局完全には落ちないんだよなあ。
 そうそう、どうにかてっぺんの屋根は両側とも塗れたものの、ペンキが尽きちゃったこともあって細かい部分&風呂場の屋根は全く手付かずで終わってしまった。これまだ塗った面積と比較するってえと追加ペンキがあと1〜2リットルもあればいいんだが、屋根用の緑ペンキってあんまり売ってないんだよなあ……


 顔や手を洗って着替え、買い出しついでに昼食へ。──連休終わって道もそこそこすいてるし、周りの景色も実に美しい。新緑があざやかだし、山を下るにしたがってツツジの開花率が上がって紅や紫の色彩があふれてるんだよね。
 入ったのはちょいと値の張りそうな中華レストラン。この系列の肉料理の店が美味しいので前から中華の方も行ってみたいと思ってたのだ。入り口付近が妙に高級っぽかったんでおいらのラフな格好じゃあドレスコードにひっかかるかなと思ったのだが、店員さんはにこやかに対応してくれて気持ちいい窓際の席に通してもらった。
 料理もひとつひとつ美味しくて、プーアル茶を飲んでると体の疲れがほぐれてくような気分である。──湯気のたつ蒸篭から小龍包を取り出して口に放り込みながら、生きててよかったなーとしみじみしてしまった。