裁判員制度と広報用映画

最近ここらはゴヨウツツジの花盛り

 来年スタート予定の裁判員制度、賛否両論あるようだけど僕はかなり興味を持っている。制度的不備や法理論的根拠のことはさておき、個人的にやってみたいし小説やルポやエッセイでネタにしたいのだ。
 で、テレビで紹介されてたり最寄りの図書館で掲示板のポスターを見かけたりすると結構気になる。図書館では映像資料の棚やてるうちに企画・制作が最高裁判所っていう広報用の映画が何本もあることに気づいた。
 勘定したら実写ドラマ物だけで四本もあり、他にアニメ物とかオリエンテーション物とかもある。だいたい一時間程度の長さで、妙に豪華キャストってのも共通点。裁判員制度はもちろん、どういう形で情報を盛り込んでるのかとか、法廷物としてどんな物語にしてるのかにも興味もあるので、この際だから一通り見比べてみようかと思い立った。だいぶ前からぼちぼち借り始め、木彫したり暖炉で焚き火したりしながらのんびり鑑賞して、今日ようやく四本を見通すことができた。
 扱う事件(傷害から放火や殺人まで)や担当する裁判長の性別など、ある程度の戦略のもとに四本を制作してるのは察しがつくし、広報としてはそうやって並列させる意義もちゃんとあることだろう。それぞれのカットバックの手法の違いとか、執行猶予って制度とドラマ的結末との関係とか、劇中の判決と視聴者の抱く満足度との関係とか(あえてずらして考えさせるのも手だよな)、見比べるといろいろ興味深いもんである。──まあしかし、そういう点については人それぞれに考えもあろうし、実際に見てみないと何とも言えないことかもしれない。ここでは個人的に気になったしょーもないことを書き連ねて紹介に変えてみたいと思います。


裁判員制度
 最初に見たのがこのDVDだったと思う。そのせいか「もしもあなたが選ばれたら」って副題のせいか、ハウツー物っぽい印象が強かった。
 もちろん西村雅彦主演で中年男性の目線で描く人間ドラマって要素もあるのだが、中村雅俊監督作品で裁判長役も中村雅俊ってこともあり、エンディングで「俺たちの旅」(だっけ?70年代風青春ドラマ)みたいに主題歌が流れてる間には映像に筆文字のポエムがオーバーラップしそうな気がしてしかたなかった。いやもちろん、ちゃんと真面目なエンディングだったけど。


裁判員
 こちらの副題は「選ばれ、そして見えてきたもの」。裁判員たちの話し合いによって判決が決まっていくってストーリー展開の起伏が一番あったのはこの作品だったかも。
 裁判長は山口果林で、とても優しそうな人って印象があるわりに判決自体はシビアであった。被告人とその奥さんの悲哀たっぷりの演技を見て「裁判員なんてやりたくない!」なんて思う人もいるんじゃなかろーかと心配になった。まあドラマの結末としては、裁判員たちも満足して主演の村上弘明の仕事もうまいことってっていうハッピーエンドだったんだけど。


『評議』
 こちらには、勝手に「浅見光彦シリーズ」って副題をくっつけたい。視点人物というか、陪審員役でナレーションをつけるのが中村俊介、裁判長役が榎木孝明なのだ。前に「トリビアの泉」が作ったパロディー映像以来の豪華共演ってもんである。それだけでもサスペンスドラマファンのハートをがっちり掴むことだろう。
 さらに、被告人役はエアギターの人、被害者役はパンヤオの人でバラエティーファンもしかり押さえている。事件の原因は三角関係の痴情のもつれってあたりには昼メロファンやワイドショーファンも黙ってないわけで、実にテレビ的にそつのない仕事であった。


『審理』
 個人的に一番おもしろかったのはこの作品。副題をつけるなら「星の金貨対決かと思いきやボーイズ対決」って感じかな。裁判員の主婦が酒井法子で裁判官が星野真里っいうキャスティングだけでも意表を突かれたが、弁護士がシティーボーイズ斉木しげる裁判員の中にサンシャインボーイズの相島一之がいるってところが実に渋い。
 相島一之といえば、裁判員制度を先取りしていた(そのわりに最近の報道ではまるで扱われないのは何故だろう?)名作『12人の優しい日本人』で主役ともいえる陪審員を演じてた役者である。その彼が元不良の運送屋って設定で裁判員をやってるだけでも、なんだか妙にスリリングであった。
 評決に対して一番口出ししたくなったのがこの作品で、僕だったら強硬に無罪を主張するだろうなあ……などと考え、そこでふと『12人の怒れる男』を思い出したってのもよくできた話である。