焼鳥屋と拾得物

バック中央部はこんなかんじ

 夕方のくろべー散歩の際、ちょいと足をのばして美味しい焼鳥屋さんへ向かった。
 持ち帰り専門の焼鳥屋はもっと近いところにも1軒あるのだが、そこは味がイマイチ(既に焼いて硬くなったものを水につけてから焼いてやんの)な上に、愛想の悪いばばあが「ナンコツなのにタレ?」とか「普通塩だよバカ」みたいな口調で尋ねたあげくに塩の串とタレの串を一緒の袋に入れてくるというろくでもない店である。くろべーの散歩ついでにちょいと足を伸ばすのが正解なのだ。
 ちょい遠い方の一軒は、親爺さんがすごく愛想がいい。聞けばもともと飲み屋系の焼鳥屋を長いこと営んでいて、そこを引退して郊外に家を買う際に敷地の一角に持ち帰り専門店をオープンしたんだとか。だから客あしらいも見事なもんだし、その道何十年って人が焼くから味も格段に上なのだ。焼きたてを包んでもらって冷めないように懐に入れ、帰宅したらささっとシャワー浴びて湯上りのビールの肴にしようと足早に帰路についた。


 んがしかし。物事とゆーのは思ったようには進まないもんである。
 歩き出してすぐ、バス通りの脇の藪に、ハンドバッグだかショルダーバッグだかが落ちているのを発見。いかにも「バス通りから放り投げました」って雰囲気で落ちてるが、不法投棄にしては立派そうなのが気になった。なんだか犯罪のにおいがするなーと思いつつ、ひょいと笹をまたいで足を伸ばしてみた。(くろべーは「そんな方に行きたくないよ」とリードの届くぎりぎり地点に待機)
 バッグを手にとってみたら、ファスナーが半開きな上に中に財布や本やケータイ電話らしきものが見える。どうも捨てたわけじゃなさそーだと思って見てみると、財布の札入れ部分がからっぽ。こりゃ引ったくりか置き引き犯が捨てたに違いないと思い、警察に届けることにした。
 んがしかし。僕はこのへんの土地に詳しくない。一番近い交番がどこか分からんし、唯一思い浮かぶ場所も結構遠い。いったん帰宅してくろべーに夕食やってから、自転車で出かけることにした。前にも散歩中に落し物を拾って交番にとどけたことがあるのだが、犬連れで行くと結構面倒なんだよね。
 自転車でさーっと行ってぱっと届けてとっとと帰ればいいやと思ってたんだけど、いざついてみたら交番は無人だった。「事件・事故で出かけているのでご用の際はこちらに電話を」みたいな表示が出てて、仕方ねえなあとかけてみたら、若いおまわりさんが「じゃあ今から行きますんでそこで待っててください」だそうな。
 まいったなーと思いながら吹きさらしの外で待つことしばし。年配の、なだぎ武にちょい似のおまわりさんがやってきた。開口一番、「トイレ貸してください!」と頼むタケウチ。待ってる間にすっかり冷えちまったのだ。
 トイレから出て事情を話したところ、バッグの中身を見て身分証や名刺を見つけたおまわりさんが電話をかけはじめた。てっきり落とし主に電話してんのかと思ったらそうではなく、管内で今日発生した事件の被害者の名前を確認してるのだった。──何の事件かは教えてくんなかったが、仮に殺人事件の被害者の名前と一致したりしたら僕は容疑者ってことになるんだろーかとふと不安になってしまった。


 まあ結局、権利放棄か何かの書類にサインしただけで放免されたんだけど……帰宅してみたら焼鳥がすっかり冷めていたのがものすごく悲しかった。せめてバッグが持ち主のもとに戻りますように……