ネツケとボルト

「たねつけ」「みみかき」「あくび」の

 ぱっとしない天気のまま7月が終わるねえ。梅雨明けっつっても晴れたのはそっから数日だけで、あとは梅雨どきよりよっぽど降ってる気がする。──どの局のお天気キャスターだったか忘れたが、「これは戻り梅雨です」とか「夏の天気がぐずついてる状態ですね」とか、意地になって理屈をつけようとしてるみたいでおかしかったが、単に梅雨明け宣言がミスだったってことじゃないのかなあ。
 悪天候が続く中、僕はこのところ根付づくりに凝っている。ちょいと興味を持ってネットや本で調べてるうち、ふつふつと作りたくなってくろべーをモデルに3つばかり作ってみたのだ。まあ3つ目はまだヤスリがけの途中なんだけど、仕上げの終わった2つはキーホルダーとして活用している。
 実験的に、1作目の種付根付は塗料を塗った後で桐油で仕上げ、2作目の「あくび」は塗装後にラッカースプレーで仕上げた。それぞれ一長一短あるようなので(桐油仕上げは塗料がはがれやすく、ラッカーはテカテカしすぎて木の質感がなくなる)、3作目はどうしようか迷うね。今回は大きな傷も節も出ずに彫りあがったので、黒犬にせずにこのまま木目を残す手もあるし、さてどーしたもんか。


 そもそも根付ってものを意識したのはどこかの美術館で、展示品として見た時には細工の精巧さにすげーなーと思っただけだった。それがこの冬、キャットカービングを教わったときに先生から「根付みたいな小さい作品を彫りたいから小さい材が欲しい」なんて言われて、そーか自分で彫れるんだよなってことを意識した。そしてこの春、ご近所さんからシイタケ作りを教わったときに電動ドリルを貸してもらい、この際だからと穴を組み込んだ作品を彫ってみようと思い立った。
 穴から発想して自己流で彫ってみたのはチェス駒のルーク型の根付で、駒入れの巾着袋の紐の端にくっつけてみた。しかしどーも一般的な根付のイメージと違うなと思い、既存の作品をいろいろ調べてみることにしたのだが……それにしても、根付の本って意外に少ないんだねえ。大抵は値の張る専門書だし、NHKの「美の壷」の本は内容が薄すぎるし、日本の伝統工芸なのに和書より洋書の方がいっぱいあるってのも変な話だよなーと思う。
 まあネットの画像検索なんかでも結構いろいろ見られて楽しいが、見てるうちに僕は人物像より動物像の方が好きなんだなと気づいた。そういえばこれまで自分で彫る分にも人より動物が多かったもんな。圧倒的に犬ばかり彫ってたのはモデルの存在のおかげなんだろーけど、たとえくろべー並みにモデルをつとめてくれる人がいても動物を彫る方を選びそうな気がする。
 あと、これは僕の偏見かもしれないけど、昔の根付の人物像って、何となくいやったらしいタッチが多くないかなあ。春画的な洒落のきいたデザインって意味じゃなく、なんとなく嫌な印象を抱く人物像が多い気がするのだ。たとえば、僕は北方版『水滸伝』自体は大好きなのに、表紙や口絵に使われてる中国の絵のタッチが嫌いなんだけど、あの絵のような造形の根付って多い気がするのだ。
 北方水滸伝の絵は担当編集者が古書業者から買った中国の絵巻物から人物像を拾ってるって話だったと思うが、どれも下膨れ型のおっさんが不気味な笑みを浮かべつつどこかデッサンの狂ったポーズをとっている。江戸時代の根付についても、人物像についてはこの水滸伝絵柄によく似た雰囲気があって嫌なのである。(余談ではあるが、中国歴史物の雰囲気を出すためにこの絵柄を使うってのは根本的に間違ってると思う。旧弊な登場人物像をぶっ壊して血の通った人間像を造形したのが北方水滸伝のキモなのに、わざわざ古臭いビジュアルを持ってきてどーする!)
 まあ水滸伝の絵は単に下手ってのもあるんだろうけど、根付の場合は僕など及ぶべくもない職人芸の精巧さで作られている。作品の小ささがネックになるとはいえ、いくらでも美しく作ることは可能だろうし、現にそういう作品も少なくないんだから、あえてこういうタッチの人物像を選んだとしか思えない。それはつまり……平面と立体、日本と中国の違いはあれでも時代が近いと画風が似るってことなのかなあ? 昔はこういうタッチが主流だったのだろーか?


 なーんてことを思いつつ、話題は急に飛んで、ディズニー映画の『ボルト』。この夏の映画の中で、僕はこの作品が一番気になっている。
 実をいうとディズニー・ピクサーのCGアニメ映画の人物造形についても、なんかタッチが嫌だなーと思ってた僕なのだが、『ボルト』は犬だから気にならないのだ。つうか犬が主役で、虚構と現実が絡む内容で、おまけに大事な人を探して旅するロードムービーときたら、僕の好きな要素がてんこ盛り。見たらスクリーンの前で泣いちゃうんじゃないかって予感さえするほどだ。
 でも夏休みのディズニー映画となると客席は子供づれファミリー層が基本だろうし、とても僕一人じゃ行きづらい。ディズニー好きの女の子とデートって形をとれば映画館でもそれほど浮かないかもしれんが、そもそもおいらの山小屋からは映画館って結構遠くて行くだけでも一苦労だし。
 DVDが出るまで待つかーとも思うけど、今回は3D上映らしいと聞いてやはり映画館かと迷っている。つくば万博で感動して以来、立体映像って妙に好きなんだよなあ。
 ともあれ、根付造りや木彫りの参考のためにも、ボルトのフィギュアは何ポーズか手に入れときたいなと思ってます。またどっかで、ジュースやシリアルのおまけとかになってないかなあ。