椿材と小刀

おなか近くで紐を通す構造

 このところ、椿材を使ってくろべー根付の第4弾を作っている。雨がちの天気が続くので家ごもりの日々なんだけど、木彫り作業をしてるとあっという間に時間がたっていく。今日はがしがしとヤスリ作業に励んだ。
 この椿材、前の家から持ってきたものなんだけど、庭で伐採してからは多分六年くらいたっている。前の家では軒下に吊って物干し竿みたいに使ってたし、今の家では三年ばかり暖炉のそばにたてかけといたので、木彫り材としての乾燥は充分。前の家で伐採する前にはくろべーがよくマーキングしてたっけなーと思うと、やはりくろべーの片足上げたポーズを彫るべき素材である。
 乾燥が進むにつれて端の方から割れ目が入ったが、ノコギリで切ったらすぐに割れのない部分が出てきた。彫ってみると、すげえ堅いけど粘りとツヤがああって実にいい感じ。堅くて目が細かいし、木目にそって割れる性質もないので細かい彫りにも見事に耐える。本職の彫り師の人たちが堅い材を好む理由がようやく実感できてきた今日この頃である。
 なにしろかつて椿材でくろべー像を彫ったときには目を彫る技術がなかった。それがこの冬、猫彫り教室で修業したおかげで今では多少細かい作業でも何とかなる。でもそうなると素材の方が細かい細工に向いてなかったりもするんだけど、椿ならかなりの無理でも聞いてもらえる感じが嬉しい。
 しかし堅いってえと弊害もある。やたらと疲れるってのもあるし、彫りながら歯を噛み締めるせいで奥歯の方が痛くなったりもする。さらに……ぐりぐりと削ってる最中、小刀の柄がばきっと折れたのには驚いた。なにしろ力を入れてるので、折れた刃先が回転しながら吹っ飛んで、さながら手裏剣のごとしである。僕にもくろべーにも当たらなかったからいいけれど、飛びどころが悪けりゃ大怪我しかねないよなあ。
 もともと切り出し小刀を愛用してる僕だけど、木製の柄だと使ってるうちにガタが出るのが分かったので最近はプラスチック製の柄を選んでいた。しかしガタが出なけりゃ突然折れて吹っ飛ぶってのも油断ならない。安物ばっかり使ってるのがいけないんだろうけど、どっかにいい道具ないかなあ。
 ともあれ、磨きをかけて木彫りの形がしっかり際立ってくるのはいいものだ。これからくろべー部分をバーニング仕上げにする予定なんだけど、椿の木目が美しいのでこのままでいいんじゃないかって気も強くする。どーも昔から、絵や工作ってえと仕上げ段階で失敗して台無しってことが多いし。
 それはともかく、今回はマーキングしてるくろべーの姿をモチーフにしつつ、チェス駒をたくさん彫ってきた経験を活かしてみた。倒れてるキングにくろべーが不埒なことをしてる図で、「まぁキング」と命名。──最近いろいろ資料で調べてるんだけど、こういう遊びの感覚で作れるのが根付のいいとこかなと思うんだよね。根付の鑑賞って造形を楽しむ以外にも言葉遊びや物語を楽しむ要素があるのだ。
 日本語で表記するとベタな駄洒落感が漂っちゃうから、「MarKing」と書いた方がいいのかな。マーキングは勝利のポーズでもあるし、倒れたキングってのは勝敗が決したことを暗示してもいるので、駒袋の紐にでもつけてチェスの御守りマスコットってことにする予定。