新連載と猿軍団

群れの方を見つめてる若猿

 朝からのんびり原稿チェック。来月から始まる連載の第一回分を書き終わったので、月曜までに手直しして担当編集者に送る予定なのだ。
 午前は仕事部屋のワープロ画面で推敲、昼食時にパソコンで印刷して、午後はそのプリントアウトを読む。レイアウトが違うせいもあるけど、やっぱり画面で見るのと印刷で読むのとでは違うもんで、それぞれの段階で修正箇所が見つかるもんなんだよなあ。


 そんな推敲作業をリビングのリクライニングチェアで寛ぎながらやってたら、上の方から妙な物音が響いた、屋根の上の方から下の方にかけて、テケテケスッテケテーッって感じで誰かの足音が動いていくのだ。
 東京や千葉に住んでた頃なら、近所の猫が巡回してるんだろうと思ったことだろうが、ここには猫はほとんどいない。たまに一匹だけ見かけるけど屋根の上にいたことはない。おそらく他の野生動物だろーと察しがついた。
 去年の秋に屋根で誰かの気配がした時は、数日後に暖炉の中からフクロウが現れて驚いたことがある。猿の群れがやってくると家の周りを荒らされるし、とりあえず様子を見とくかーと思って玄関から出てみたら。
 テラスに出て上を見た途端、目が合った。──屋根の上から、若い猿が身を乗り出してこっちをうかがってたのだ。奴も下の方で誰かが動く気配がすると思って顔を出したんだろーが、こんな形で見詰め合うのも不思議なもんだ。
 見回すと周りの森のそこかしこに猿たちの姿が。どーやら群れでおいでになってるらしい。ちょうど木の実の季節だし、昨日は人間のお客があってテラスでサンマを焼いたので、七輪や焼け残りの炭にでもそのにおいが残ってたのかもね。
 あまり長いされても面倒なので、とりあえず追っ払いがてら写真を撮ることに。デジカメ持参の僕が近寄ってくと猿たちはだーっと逃げてくが、なんとなく群れ全体で同じ方向を目指してるのが面白い。こっちが道路を先回りして進路を塞ぐように立つと逃げ遅れた奴らが木の上に逃げたりなんかして。
 それにしても数が多い。去年までは十数頭の群れが普通だったと思うけど、今日うちの周りに来たお客さんたちはざっと勘定して40や50頭はいそうである。人間の子供だったら一クラスだなと思うけど、大人から若いのから赤ちゃんまでいる様は壮観といえば壮観であった。


 ちなみに新連載は根付にまつわる小説で、担当編集者は先月イギリスに行ったときに大英博物館のおみやげってことで猿の根付のレプリカをくれた。僕はその根付を構想メモの束にくっつけて机の上に置いて執筆してたんだけど、その初回原稿を書き上げた途端に猿の集団が家を取り囲んでたってのは……きっと吉兆とか瑞兆ってもんだろうな。うん。
 そんなわけで、読者の皆様。11月下旬発売の『小説推理』をどーぞお楽しみに。