ウィンカー修理とアンティーク物語

新作根付「ポーンボーン」

 朝起きて、やたら寒いが空が晴れててほっとする。昨日は午後からえらい勢いで雪が降ってきててびびってたのだ。「小説推
理」の著者校ゲラも明日までに届けなきゃいかんので(なにしろ発売日まで2週間切っている)、近くのコンビニまで車を走らせる。
 この車ってのも問題で、左後ろのウインカーがつかない。こないだ雪道で車を切り返してたら、リアバンパーが除雪後の雪だまりにぶつかって点灯しなくなっちゃったのだ。そーすると左折時のカッチカッチ音がテンポアップしてカチカチカチカチ……となることを初めて知ったが、何はともあれ直さなくちゃならない。ていうか、ただでさえ雪がつもって危ない道だけに、極力左折しないで修理できる場所まで移動しなきゃならない。
 おまけにそろそろガス欠なので、移動距離も最短にしたい……というわけで作戦を練り、走行中に右手にある角地のコンビニに右折で寄ってゲラ発送。そこの駐車場から出す時に来た道ではなく直角に交わる道に入り、その道をがーっとくだって右手にあるタイヤ量販店に寄った。
 ピットにいた兄ちゃんに症状を話したところ、愛想のない態度で「とにかく見てみましょ」とキーを受け取ってジャッキアップ。おいらは店内で待っていたが、やがて現れた兄ちゃんは平然と「直りました。ランプの玉の接触不良なだけでした」と教えてくれて、修理代を聞いたらタダでいいという。愛想ないなと思ったことなどコロッと忘れ、思わず兄貴と呼びたくなってしまった。


 今度は右折も左折も気にせずに行きつけのガソリンスタンドに寄り、帰り道で図書館へ。借りてた本やDVDを返却した後で書架の間をぶらぶら。
 小説業界に足を踏み入れてからは現代小説コーナーからは遠ざかりがちになったが、最近は木彫りが趣味なこともあって工芸コーナーが好きである。さっき返送したゲラにも図書館で工芸コーナーを目指すシーンが出てきたっけなと思いつつ、ずらりと並んだ工芸本をぼけーっと眺めていたところ。
 知ってる名前を見つけてびっくり。「野中ともそ」という著者名の本があったのだ。いや野中ともそさんは作家だから著者名にあっても不思議はないんだけど、それこそ現代小説の書架に並んでるのが普通で、工芸コーナーにあるのが意外だった。反射的に手に取った本のタイトルは『ニューヨーク・アンティーク物語』、どうやらこの図書館の分類では、「アンティーク→骨董品→ならば工芸」という判断がくだされたらしい。
 著者プロフィールを見ると、イラストレーター・エッセイスト・編集者という肩書はあっても小説家の肩書はない。野中ともそさんが小説家デビューする前に出してた本だったのだ。奥付の刊行日は1995年秋となっていて、なるほどねーと納得。なんかこー、ちょっとしたタイムスリップ気分というか、時系列の整合性が見えたというか。この3年後、ともそさんが小説すばる新人賞をとり、その翌年に僕がとったんだったかな。その授賞式でちらっとお会いした後、21世紀になってネット上で再会してマイミクになって今に至るわけだが……こういう個人的な歴史的発見と出会えるってのも、図書館の醍醐味だよなあ。
 考えてみれば、僕はちょうどそのくらいの時期にニューヨークを訪れていた。年は覚えてないけど、ハロウィンの飾り付けを見た覚えがあるから秋だったのは間違いない。知人の高級アパートメントに居候しながらフリーマーケットでアンティーク自転車を購入し、それに乗ってマンハッタンやスタッテンをサイクリングしまくっていたのだ。綺麗なイラストに彩られた本を開いてみたら最初のエッセイがフリーマーケットの話題で、妙に嬉しくなって借りて帰ることにした。
 ウィンカー修理といいアンティーク物語といい、こういうちょっとした意外性や発見に出会えると一日楽しく過ごせるような気がする。村上朝日堂でおなじみの小確幸ってやつですな。