独占プールと読書バール

岐路は明かりのない方へ進む帰路

 やたらめったらあったかい日。こういうのは嬉しいねと思いつつ、午前は部屋の掃除に励む。掃除機嫌いのくろべーは迷惑そうだが、ガラス戸を開けてテラスを開放してやると気持ちよさげに寝そべってひなたぼっこしていた。
 午後は久々にプールへ。近所のリゾートホテルでプールと温泉がセットで格安ってプランがあるのを知り、ご近所さんからもらった割引券持参でいってみたのだ。こういうのはシーズンオフのリゾート地に住んでる利点だわなあ。
 ホテル自体は意外なくらい賑わってたが、入場前に小ぎれいなプールを見たら見事に無人。着替えを済ませてる間に先客が一人入ってたけど、ほどなくいなくなってしばらく僕の独占状態で泳ぐ。わりと普通の25メートルって感じのプールだが、監視員も奥に引っ込んで完全に一人きりとなると妙に気分がいい。のんびりと1000M近く泳いだと思うが、そんなに疲れた感覚がないのは山暮らしで筋力ついたせいかほどよく保たれた室温と水温のせいか。
 休憩するときはプールサイドに寝転がるのじゃなくて日当たりいいとこに置かれたデッキチェアで寛ぐことができるのもリゾートホテルって感じで嬉しい。近くには水浴するアフロディーテとおぼしきギリシャ彫刻のレプリカが飾ってあるのもいい雰囲気だ。(しかしこの「水浴」ってのは水遊びと入浴とどっちの意味合いが強いんだろう?)
 今日は日差しもあったかい上に太陽光を演出するライトなんてのもあって、半裸で寝そべっててもほのぼのとあったかい。こりゃ次回は本をもってきてプールサイド読書と洒落こみたいなと思いつつ、水泳後は温泉でのんびり。プールはがらがらなのに男湯は結構混んでたのは何故だろう?


 プールで読書ができなかったので、夜は読みたい本を持って近所のバーへ。

ドラマとは何か?―ストーリー工学入門 (映人社シナリオ創作研究叢書)

ドラマとは何か?―ストーリー工学入門 (映人社シナリオ創作研究叢書)

 こないだ古本屋で川邊一外さんの『ドラマとは何か? ストーリー工学入門』って本を見かけて衝動買いしたのだ。――作家になりたいなと思ってた学生時代、大学ではほとんど何も学ばなかったような気がするが、大学の図書館でシナリオ雑誌のバックナンバーを読んで川邊一外さんの文章で勉強してたんだよね。巷間にあふれる創作論の多くは精神論に走ったり個別性を客観視できてなかったりしてあまり実用的じゃないんだけど、川邊さんの文章はすっと納得できる感覚があって参考になった。
 その後しばらくして、あらためて氏の本を読んでみようと探してたんだけど、方々さがしても検索しても見つからずに変だなーと思っていた。当時は川邊一外を「カワナベイチガイ」と読んでたんだけど、今回ようやく本の奥付を読んで「カワベカズト」と読むのだと知った。十数年にわたる読み間違いだったんだなー。
 かつて読んでた連載はこの本ではなかったと思うが、10年以上たって復習する感覚も味わえるし、自分がまがりなりにも創作活動で飯を食うようになってみるとあらためて納得できることってあるものだ。自分の中の感覚をブラッシュアップ……などと思っていたものの、バーボンをちびちびやってるうちにすっかいりいい気分になり、トイレに行く際にバーの本棚で見つけたヴォネガットの本を読み始めちゃったりなんかして。(あと2〜3回通えばこの本も読破できそうだ)
国のない男

国のない男

 最後の一杯を注文する際、マスターにメニューにはないことを頼んでみた。スタインベックの『チャーリーとの旅』を翻訳する際、旧訳の「リンゴブランデー入りコーヒー」ってのがいいなーと思ってあえてその語感のままにたんだけど、自分でも飲んでみたいと思って作ってみてもいまいち納得いってなかったのだ。そのへんのことを相談したら、エスプレッソにたっぷりカルヴァドスって形で一杯つくってもらえた。
チャーリーとの旅

チャーリーとの旅

 これがガツンとすっきり美味いのなんの。エスプレッソの鮮烈さとその奥に広がる豊かな香りってのが、どこかスタインベックっぽいなーとしみじみ。いい気分で帰りの真っ暗夜道を歩いていくことができた。