ノルウェイの森とおぼろ月の森

 今年一番の冷え込みだそーで、目覚めて寝室を出たら息が白くなり、リビングの温度計みたら摂氏4度を切っていた。
 それでも風がないおかげで朝散歩の体感温度的にはけっこう穏やかで、主従で雪についた野生動物の足跡(キツネ?)を辿ってのんびり歩く。帰宅して朝食を済ませた後は仕事部屋で新作根付の毛描き作業をフィニッシュ。時間の許すかぎり長編のゲラ校正をやって、昼前に下山。買い物やら用事やらあるし、冷え込んだ途端に灯油が尽きたので買っておかねば命にかかわるのだ。
 昼前にシネコンにいき、『ノルウェイの森』の前売券を座席券に交換。公開間もない話題作だから込んでるかと思いきや、僕の前に埋まった座席は2席だけ。まあすいてる分には何よりだし、2席あるとこに3席目を買うのに似合う作品かもね。
 で、見た感想はというと……個人的に印象的だったのはハツミさん登場シーン。女優さんのアップが映った瞬間、自然とそれがハツミさんだと分かったのが自分で不思議だった。特に説明があったわけでもないし「僕の抱いてたイメージにぴったり!」とか思ったわけでもないのだが、何故なんだろう。まあそれが作り手側の腕ってもんなのかもしれないけど、
 不思議ついでに、そのシーンでロビーの光景を見ただけで「あ、高崎の音楽センターだ」って分かったのは自分でも驚いた。単なる錯覚のような気もしたけど、その後ちゃんとステージも映ってたしエンドロールにも出てたから間違いない。最近ではケンコバ出演CMのロケ地にもなってた気がするが、一瞬うつっただけで感覚的にすっと分かるってのはどういう脳の働きなのかなあ。この20年、訪れたこともなけりゃ思い出しもしなかった場所なんだけど。


 映画全体についていえば、映像や演技が見事な部分もたくさんあったし作品としてよくまとまってるとも思う。だけど一方で、これじゃ納得いかない人も多かろうって気がしたのも確か。原作知らん人が見る分には問題ないのかなあ。
 個人的には、直子要素に比べて緑要素が弱かったせいで終盤のワタナベ君の動機が希薄に思えたのが残念。なにかしら彼の心が動く印象的なシーンを1つ入れとけば違っただろうに、それよりは受け身のワタナベ君っていう役割を前に出したかったのかなあ。
 キャスティングについてもいろいろ異論はありそーだ。僕の印象のビフォーアフターを矢印で繋いで書いてみると……


<ワタナベ君>
おお、実力派マツケンか、なるほどねー。楽しみだ。
  ↓
やっぱりうまいなー。小説台詞の芝居化も見事だし、ちょっとした表情の変化で表現する力がすごい。しかしお笑いコントに毒された身としては、白ブリーフ一丁はどうかと……


<直子>
菊地凛子はミスキャストじゃないかなあ。直子にしちゃあアクが強いというか、むしろ緑役の方が……
  ↓
なるほど演技は迫力。魅せる。しかし時々20歳前後に見えない……まあ病気やつれってことで納得すりゃいいのかなあ。


<緑>
ちょっと印象うすいかも。コケティッシュを通り越してエキセントリックな魅力はどうやって出すんだろう?
  ↓
細いなーと感心しつつ、それはむしろ一時期の直子の属性だろう。台詞廻しが面白いとこも多かったので、もっと見せ場がほしかった。


<永沢さん>
へー、玉鉄がやるのかあ。クールな男前ってことか?
  ↓
玉鉄って『逆境ナイン』だよね? 顔、かわったなー。つうかそれも役作りか。違和感なし。傲慢さを増した演出もうまく機能してる。


<レイコさん>
宣伝で亜美寮でギターを弾いてる場面の画を見て、ちょっと若すぎじゃなかろーかと懸念。
  ↓
若すぎとは思わなかったが、やっぱり美人で皺少ない。美しさ重視でユーモア減退が残念。まあそれは映画全体の方向性みたいだけど。


<突撃隊>
どーせ映画化のダイジェスト工程でカットされちゃうキャラクターだろうなあ。
  ↓
おお、出てる! 見た目も面白い! 吃音芝居もナチュラル! 一瞬満足しかかったが、寮生活の背景的に処理されてたのはもったいない。


糸井重里
なんで? 原作者と同世代で仲いい&当時の早稲田の空気を知ってる証人ってことで出したいのか?
  ↓
無理に出す必要もないミスキャストだ……トトロのお父さんには文句なかったのだが。


YMO
こういうキャスティングってフジテレビ商法なのか?
  ↓
糸井教授ほど違和感ないけど、店長に比べて門番は芝居がくどいぞ。すぐ目線そらす演出でよかろうに。


 映画を見た後、いろいろ用事を片付けて帰宅。個人的かついろいろ込み入った事情のある手紙が届いてて、こういうのも『ノルウェイ』っぽいかなーと思いつつ、夕方のくろべー散歩で歩きながら読むことに。
 下界は晴れてて道も乾いてたけど家のまわりは雪が積もってる。まあ例年に比べりゃ積もり具合も穏やかなもんで、やっぱり暖冬なんだなーとは思うけど。
 風がないので楽は楽だし、ふと空を見上げればおぼろな月も見える。雪景色におぼろ月ってのも乙なもんで、ふと映画の中の雪景色を思い出した。