飛行講習と小説構想

おいらも飛んでみたいなあ

 仕事がらみのお勉強で調べ物をしてて、気付いたら昼を回ってた。
 昼食は外でとろうと思い、自転車で調布飛行場を目指す。――最近、飛行場のプロペラカフェってとこで食事ができることを知ったのだ。越冬地からは自転車でしばらく走れば行ける距離なので、冬の間にいってみようと思ってたのである。
 かつて世田谷に住んでた頃はよく野川沿いにサイクリングして近くを通ってたのだが、飛行場そのものに立ち寄ったことはなかった。フェンスで囲われて関係者以外立ち入り禁止の札が出てるし、警備員なんかもいるので僕が自転車でふらふら立ち寄ったら怒られるかと思ってたのである。今日だって自転車でふらふらしてることに違いはないわけだが、情報とはありがたいもんで、今日は自信をもって寄っていき、警備員に向かって「プロペラカフェに行きたいんですけどー」と声をかける。そんならどうぞと通してくれて、こういう警備ってのものどかだねーと思う。
 店内は飛行機の模型やフライトシミュレーターが飾ってあったりするし、小型飛行機の価格表や離島への定期便の時刻表などが貼り出してあったりしてなかなか楽しい。何より、窓の外は飛行場の滑走路と飛行機の格納庫なのだ。こういうところでぼけっと外を眺めてすごすのもいいものだ。
 目の前の滑走路には黄色い複葉機が止まっている。なんだかやたらとかわいらしいデザインで、日差しを浴びてる姿を見ながらカメラ持ってくりゃよかったなーと思う。壁の張り紙を見ると売りにも出てるモデルのようで、「30000000」なんて書いてあった。三百万なら下手な外車買うよりこっちを買うべきだろーなどと思ってよく見ると、ゼロが一個おおくて三千万でやんの。いや百万円代の飛行機も売ってたけど、やっぱり見るからにいいやつは高いんだなあ。どっちみち買えっこないから値段がいくらだって関係ないのだが。
 食事してるうちに滑走路に人が出てきた。複葉機の隣のヘリコプターのあたりで何やら話してるのは、飛行講習か何かのようだ。スタッフらしき人が機体整備みたいなことをしてたが、それは作業着のおっちゃんが脚立かついでとことこ歩いてきてそれにのぼり、プロペラの根元で何やらいじってるだけだった。平日のお昼になんとものどかな雰囲気だったが、それでもちゃんとヘリは飛びあがったんだから大したものだ。
 黄色い複葉機でも講習がおこなわれているようだ。近くの席にいた金持ち風マダム2人組のお喋りが聞こえてきて、素人の僕にとってはいい解説になる。「飛ぶのかしらね?」「これから飛ぶわよ。教官ものってるじゃない」「あの眼鏡の人が生徒ね」「初フライトみたいね。飛ぶまでは時間かかるわよ」だそうで、食後のコーヒーまで飲み終わった僕はそーか時間かかるのかと会計すませて帰ることにした。
 カフェの近くには自転車数台と一緒に何故かばかでかい高級リムジンがとまってて、これに乗ってきたのはさっきの生徒かマダムかどっちかなーと思う。おいらは大家さんに借りてるプジョー(自転車)に乗って走り出し、なつかしき野川沿いを走って帰路につく。
 と、見上げた空を小さな影が飛んでいく。よく見りゃ複葉機だ。今時そうそう飛んでる機体じゃなかろうし、さっきの講習がもうテイクオフしたらしい。おばちゃん解説まちがってるじゃねーかと思いつつ、さっき見たかわいい複葉機の空をいく勇姿を見られたのはちょっと嬉しい。つくづくカメラを持ってくりゃよかったな。


 帰宅後、今日は夕方から雨という予報なので早目のくろべー散歩に。もしやと思ってデジカメを持参していると、ドッグラン上空にさっきのヘリコプターが現れた。テイクオフから小1時間ってとこだろうか。東京西部上空をぐるっと回って戻ってきたのだろう。
 斜め上を横切っていく機体にカメラを向けつつ、こういう光景を見て空を飛ぶのに憧れる少年の成長譚を書いてみたいなーと考えていた。