明け方ドライブと喜多方ラーメン

元祖のにおいがするかい?

 車中泊で目覚める朝。――新潟で『カレーライフ』大千秋楽を終えた後、そのまま車で福島旅行に繰り出すことにしたのだ。
 群馬育ちの僕にとって、新潟と福島ってえとまるで別方向って感覚があるんだけど、実は隣接してて磐越自動車道を使えば小1時間で移動出来る。桃太郎電鉄だって5マスか6マスで移動できたはずで、せっかくだから会津地方を旅行して木工芸や漆工芸を眺めたり喜多方ラーメンを食べたりしようと思ってたのだ。そのために車にエアベッドと寝袋と黒犬を詰め込み、後顧の憂いなく旅行してんのである。
 ベッドの上ではくろべーと場所の取り合いをしながら眠ることとなったが、おかげで夜明け頃の冷え込みもしのげたし、わりと熟睡して早めに目覚めた。だったら早起きついでに早めに移動しちまえと、朝のうちに福島入り。朝もやの立つ山並みを眺めながらのドライブは気持ちよかったし、高速の料金所の人も元気よく愛想よくて、「がんばろう東北、うつくしま福島」ってキャッチフレーズをふと思い出す。
 高速出口の会津若松からちょっと走ればすぐ喜多方市で、道沿いにラーメンの幟が増えてくる。――現地に着いてから知って驚いたが、さすが喜多方ラーメンの本場だけあって、駅前に朝から営業してるラーメン屋が結構ある。無料で配布してる喜多方老麺会のガイドマップを見ると、午前10時開店くらい当たり前、朝の7時8時からやってる店だって少なくない。もともとそういう土地柄なのか、ラーメンで町興しってことで営業時間を早めたのか、どっちなんだろ。
 何はともあれ僕みたいな朝型旅行者には嬉しい。日が高くなると車内温度も上がって車で留守番するくろべーの負担が増すので、入店するのは早けりゃ早いほどいいのだ。駅前の店でも大抵は駐車場が用意してあるのもありがたいかぎりで、くろべーにはちょっと待ってろと告げていそいそとラーメン屋ハシゴ。
 店によっては「一杯のかけそば」的に複数で入ってラーメン一杯を分け合って食べるってのもOKなんだそうで、何軒もハシゴして食べまくるには便利なシステムだ。ちょこっと歩けば回れる範囲に何十軒もラーメン店があるし、貸自転車も充実してるので市内散策しながら食べまくるってのも可能。国道沿いには素泊まりOKの宿の看板がいっぱいあったし、ラーメン目当てで旅行するには至れり尽くせりな街だ。こういうのって自然発生的なものばかりじゃなく、土地の人たちの努力と気配りで整備されてるんだろうし、そういう雰囲気を味わえるだけでも来た甲斐があったと思う。


 実をいうと、これまで個人的には喜多方ラーメンってあまり評価してなかった。日本三大ラーメン名所ってのは札幌・喜多方・博多だそうだけど、その3種類だったら博多を選んじゃうタイプだったし、そういう人って多いんじゃなかろうか。――東京で世田谷に住んでた頃は近所に何軒か喜多方ラーメンの店があったので時々食べてたんだけど、なんだか気の抜けた醤油ラーメンって印象で、特徴といえばチャーシュー麺でチャーシューいっぱいのってるくらいな気がしてたんだよね。
 まあ当時の世田谷にはハズレ店ばかりだったのかもしれんし、若さのせいでこってりギトギト系を欲してたからかもしれない。しかし30代も残りわずかになった今日この頃、味覚が変化したのかあっさり系ラーメンが好きになってきた。喜多方でも札幌や博多に比べて元気のない喜多方ラーメンを再興させようって動きがあると聞き、ここらで本場の味を知っときたいと個人的に思ってたのである。世田谷とインスタントしか知らずに喜多方ラーメンを否定するってのもなんだか申し訳ないもんね。
 で、本場喜多方ラーメン紀行。結論としては、本場の醍醐味ってのは確かにあった。一口に醤油ラーメンっていっても店ごとに全然ちがう味わいになってるのを食べ比べることができたし、古い街並みのそこかしこでいろんなラーメンを食べられるっていう空気感がいいんだよね。これがこってり系だと何杯も食べるわけにいかんけど、あっさり系醤油ラーメンなおかげで食べやすいし。
 さすがに同伴してるのがくろべーなので犬と分け合って食事ってわけにいかないのが残念だったけど、それでも一人でできるかぎり食べて本場の味に満足満腹。個人的には喜多方ラーメンの元祖といわれる源来軒が一番気に入ったけど、もっとたくさん回ればもっと好きな店が見つかりそうな気がする。また来よう――と思わせてくれるところが、ラーメンを観光資源にして成功してる街の凄さなんだろうな。
 今度はもっと大勢で来て、5軒や6軒は回りたいもんだと思う。いや泊まりこんだりすれば2桁も夢じゃないよな。世のラーメンマニアの中にはそういう旅行をしてる人も多いんじゃなかろうか。