ペンダントヘッドのループタイとイーストウッドのオーパーツ

星の一筆書きを立体にしたデザイン

 秋雨前線だそーで、雨が続くと嫌んなるねえ……9月中旬の写真には庭に建設中の道の完成写真をのせて前回の写真とビフォーアフター的に並べたかったんだが、前線と同様に作業も停滞中。しょーがないので今日の写真は室内作業のもの。
 つっても、これも完成前だな。キーホルダーとして使ってる自作根付、一回り大ぶりにしたらペンダントヘッドになるかなと、山桜材で彫ってみたのだ。どうにか彫り終わってヤスリ作業に入ったとこなんだけど、試しに紐を通してみたらループタイとして使えることが判明。安倍晴明の家紋をモチーフに、立体的に丸っこくしたデザインなんだけど、ループタイに活用可能なのも陰陽師のパワーかなーと思ったりなんかして。
 普通ループタイってのは紐の途中でヘッドを留めるための器具がついてるものなんだけど、これは穴が多いデザインが功を奏した。五芒星の4つの穴に紐を通していくってえと自然に留まるし、紐の長さ調節も簡単。もちろん根付としてもペンダントヘッドとしても使えるし、完成したら重宝しそうだ。――完成までの磨きが大変なのと、仕上げの染めをどーするかは決めてないんだけど。


 ループタイといえば、ネットで調べていたら何か妙だなって記述が出てきた。
“ループタイはボロタイ、ストリングタイ、ポーラータイともいわれる。1973年に省エネルックでネクタイの代用として着用されたのが起源”
 こんな感じの説明が、複数のサイトにのってんのだ。個人のブログみたいなのだけならともかく、辞書事典サイトやらファッション情報ネットマガジンやら、ある程度公的なサイトにも出てくる。文章の感じも似てるとこを見ると、一つのサイトが出元になって、雑な仕事をするライターがそれを適当に引用して間違いを広めているらしい。知ったかぶりの誤情報の元として有名なウィキペディアにも、さも事実のようにのってるが、僕の感覚ではつっこみどころが複数あったので、ちょいと調べてみた。
 まずは省エネルックが1973年に生まれたように書かれてる点がおかしい。1971年生まれの僕は、小学生の頃に「省エネルック」って新語が提唱されてるのを見た覚えがあるのだ。調べてみたら大平正芳内閣が第二次オイルショックを受けて省エネ政策の一環で提唱したのが省エネルックで、その大平さんが総理大臣になったのは1978年の暮れ。彼が夏のファッションとして提唱したなら1979年以降ってことになる。1973年ってのは第一次オイルショックの年で、誤情報の書き手はそのあたりを混同してたようだ。
 まあ第一次でも第二次でも大差ないじゃないかって考え方もあるけれど、誤情報はもっと根本的な間違いを含んでいる。73年にしろ79年にしろ、ループタイが70年代の日本で生まれたというのであれば……1968年制作のアメリカ映画『マンハッタン無宿』で、クリント・イーストウッドがつけている、ループタイそっくりの代物は何なんだ? 時代や場所を超えて存在するオーパーツか? イーストウッドは未来から60年代ハリウッドに舞い降りたタイムトラベラーか?


 結論を言えば、ループタイの起源は日本じゃない。アメリカ西部のカウボーイのファッションとして生まれたもののようである。『マンハッタン無宿』では、西部からニューヨークにきた田舎男を表すファッションアイテムとして、ループタイが使われていたようだ。(今その写真を見ると、若きイーストウッドのファッションは実にカッコいいんだけれど)
 もっとも、正確にいえばその時点では「ループタイ」ではない。ループタイってのは和製英語で、アメリカではボロタイと呼ぶのが一般的なようだ。帽子の飾りベルトを首にかけたのが始まりとか、獣に投げつけて脚に絡ませて捕まえるボラという鉄球付き投げ縄に見立てたとか、いろんな説があるようだが、いずれにしてもアメリカで生まれたのは間違いないようだ。
 何のこたあない、オイルショックの日本で省エネルックとしてネクタイのかわりにもっと涼しいものを着用しようってことが提唱され(2011年の夏にも似たようなことがあったね)、アメリカのウエスタンファッションで準礼装とみなされていたボロタイが紹介され、それに合わせて「ループタイ」って和製英語が広まっていったってことらしい。
 その和製英語の起源とアイテムそのものの起源が混同され、オイルショックの1次と2次が混同され、いろんな意味で大間違いって言説が、2011年の節電サマーに合わせてネットで流布してるってのが事情のようだ。そこまで分かるとすっきりするし、ネットで広まるデマってものに思いを馳せながら『マンハッタン無宿』を鑑賞するってのもなかなか乙なもんかもしれない。――アマゾンで検索してみたら、ちょうどいいタイミングで再発売されるようではないか。

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