ステキな金縛りとステミな出迎え

足踏むなよなタケウチ

 買い出しがてら、三谷幸喜監督作品『ステキな金縛り』を観にいく。

「ステキな金縛り」オリジナル・サウンドトラック

「ステキな金縛り」オリジナル・サウンドトラック

 
 昼からの回に行くつもりだったんだけど、午前のうちにシネコン窓口で席を予約……したところ、スタッフのお姉さんから「すべて空いておりますのでお好きな席をどうぞ」と言われてびっくり。まあ田舎のシネコンだし、わざわざ人の少ない平日午前にきてるせいもあるんだろーけど、それにしても何百席もあるのにもったいないなーと思ってしまう。
 貸し切り上映と思えば贅沢な気分だが、幽霊ものの映画だけに一人で見るなら怖いしコメディーだけに他の観客の笑い声が聞こえないのも淋しいし……などと心配してしまう。「コメディーは観客の笑い声が加わって初めて完成する」って言葉に従って、三谷映画は必ず映画館で見ることにしてるので、他にお客がいないとなんとなく困ってしまう。
 まあしかし、昼飯や買物を済ませて上映開始5分前にシアター入りすると、二桁人数のお客がいて一安心。いや当代随一の売れっ子監督に対して僕が心配することもないのだが、実をいうと、テレビCM見るかぎり面白そうに見えないなーなんてことも心配だったのだ。いや宣伝番組とかエッセイとか雑誌記事とかを見れば期待も湧いてくるんだけど、なんというか15秒ほどのCMで面白さを伝えるのは難しい映画なのかもね。
 内容的には笑って泣けてしっかり満足。幽霊の法廷ものっていう設定にいかにリアリティーを持たせるか――というか、いかにリアリティーなどなくていいんだと客を納得させちまうかっていう技には感服のいたり。パンフレットを読むと、こういう設定の映画の製作に踏み切るまでの土壌づくりがあったことが書かれていて、笑いを追求するってことについて考えさせられる。おいらもコメディー書きたいなー。
 映像的には、三谷映画は映像美で惹きつけるってタイプではない、どころか意図的にそれを避けてんのかな。特に序盤はあえて魅力的でない映像にしてんのかなと思ったけど、随所に名作映画へのオマージュぽいカットがあったので、それを探すのも楽しいかも。そういう見方を好むかどうか好み次第だろうけど、それも映画の魅力の一つには違いないよね。
 相変わらず豪華なキャスト陣の芝居もよかった。個人的にコメディー役者としての阿部寛って大好きなのでついに三谷コメディーに出てくれたってのが嬉しかったし(またいい台詞が当ててあっていい芝居なんだこれが)、西田敏行のちょっとした言い回しが絶妙に心地よく笑いを誘う。中井貴一のエアドッグ芝居は最高だったし、小日向文世VS市村正親の対決シーンなんて贅沢この上ないよなー。
 ただ、……唯一難癖をつけるなら、犬の芝居は違う気がした。飼い主と久々に再会して喜ぶラブのはしゃぎっぷりは、あんな演技じゃ全然足らないと思うのだ。中井貴一が見事に感情を抑えきれなくなってる芝居で笑いをとってるとこだけに、もっと弾けろラブラドールと思わずにはいられなかった。まあそんなこと思いつつ、個人的に一番好きなシーンはどこかっていったらそこなんだけどね。


 そもそも、演出した三谷監督も演技してる中井貴一さんもラブオーナーである。彼らが納得してる以上、一般的なラブラドール犬の行動っていうのはああいうものなのだろーか。むしろ僕の認識の方が違ってるのかなと、ふと疑問がわいてきた。
 なにしろ映画と買い出しから帰宅してみると、ほんの数時間ぶりってだけなのに僕を迎えるくろべーは浮かれてはしゃいで大騒ぎである。ワホワホと何やら意味不明な台詞を喋りまくりながらお帰りってメッセージを伝えてくるし、飛びつく・駆け回る・何かしら目につくものをくわえるってのを繰り返してしばらく落ち着かない。犬ってなあそういうもんだと思ってたけど、くろべーの方が特殊で映画の方が普通てことなのだろーか?
 今日のくろべーはというと、買い出し荷物を抱えて入ってきた僕を出迎える際、だーっと足元に駆け寄ってきたもんだから、僕の視界から消えたついでに足をふんづけられて悲鳴を上げていた。それでも一瞬で立ち直ってまたはしゃいでるんだから、映画のような形で再会したらどんなことになるんだろーと思わずにはいられない。
 と、いうわけで。世のラブラドールオーナーさん、というか犬好きの人には是非みてほしい映画だし、あの場面の感想をいろんな人に聞いてみたいもんであります。