雪中ダッフルと黒犬ブロック

回収後の「何してんの?」って表情

 目覚めたら、窓の外が白い。昨日からの雪が積もったのか、窓開けてみてみれば、外はすっかり雪景色である。そんなに寒く感じなかったのは、風が弱いのと昨夜燃え盛る暖炉にぶっとい薪を放り込んでおいたおかげだったらしい。
 暖炉には今朝になっても熾き火が残ってて、寝起きにそこに薪を足してがんがん燃やす。朝ごはんは煮物の残りにうどん玉を放り込んで鍋焼きうどんならぬ飯盒焼きうどん。それが煮える間、朝の散歩は雪中行軍だーと、ダッフルのロングコートで出撃。
 まあ景色こそ真っ白だったけど、積雪量は大したことなく、長靴の必要はなくてトレッキングシューズで充分なくらいだった。例年とちがって11月中にドカ雪もなかったし、今年は暖冬だという噂は当たってるかもしれない。このまま明日春になったって個人的には何の文句もないのだが。


 このところ、散歩の出先でくろべーとサッカーして遊ぶのが習慣になっている。帰り道のくろべーは僕からゲットしたサッカーボールをくわえて歩くのが恒例で、ボールがないと物足りなさそうな顔するので、雪の中でもサッカーして遊ぶ。
 すると、僕の蹴ったボールが道から外れ、枯れた沢のくぼみの方に転がってってしまった。わりと谷っぽくなってるとこに落ち、くろべーは怖がって取りにいかないので、仕方なく僕がおっかなびっくり下に取りにいくことに。
 幸いこけることなく谷底に着き、ボールも無事に回収。それをくろべーに投げ上げてやったんだけど、奴は飛んでくるボールを宙でぱくっとくわえようとしやがった。
 いくら口がでかいとはいえサッカーボールを簡単にくわえられるはずもなく、結果的に前歯が当たってボールを弾き飛ばし、バレーボールの見事なブロックみたいになってしまった。ばしっとはじかれたボールは僕の横を抜け、さらなる谷底へ転がっていく……
 谷底っつっても自然のものではなく、沢の流れが道路の下をくぐてるように土管が埋めてあって暗渠になっている。その暗渠の奥にいっちまったら回収不可能だが、幸か不幸かボールは土管にちょこっと入ったとこで止まっている。道路からこっちを見ているくろべーの期待に満ちた表情に背中を押され、僕は雪の中おっかなびっくりその暗渠の方へと進んでいった。
 しかし、僕が入れるほどでかい土管じゃないし、ボールまでは手も届かない。暗渠入り口には雪も吹き込まずに落ち葉がたまっていたが、そこに足を踏み出したら落ち葉の層にずぼっとはまってしまった。おまけに下の方の落ち葉はびちゃびちゃに湿ってたもんで、靴先がしっかり濡れてしまった。
 直接取るのは難しいようだなーと、周りを見回してたら近くの木の枯れ枝が目についた。それをぼきっと折りとり、暗渠の先に枝を伸ばす。人間の知恵を活かして道具を使おうと、枝先の二股に分かれた部分を鉤のように使ってみたのだ。
 悪戦苦闘の末、よーやくボールを回収。今度はブロックされないように、少しくろべーと離れたところに投げてやる。くろべーは大喜びで追いかけてくわえているが、その後谷底の僕を見下ろしながら「何してんの?」って顔をしてるのが心外であった。