からすのパンやさんとパン食い大魔王

初対面においかぎ二つ巴ですな

 越冬コテージの近所のパン屋さんが近々閉店することになった。パン屋の名店が多いこの土地でもクリームパンが一番おいしい店だったのに残念。最後の思い出にと、昼飯前にくろべーと散歩がてら買いに行った。
 ところが入店してみるとクリームパンの姿がない。「これから焼けますかー?」と尋ねてみたら、20分ほどしたら焼けるという。そんじゃあ散歩の帰り道に寄りますと言って散歩再会。去り際にレジ係のおばあちゃんが追いかけてきて、「すいません、30分!」と言い添えてくれた。今まさに、焼け具合をみつつオーブンに入れてるってことらしい。
 で、そこからちょっと歩いたとこのドッグカフェによってコーヒーを飲むことに。くろべーにしたら散歩の距離が増えて嬉しいし、ドッグカフェの犬たちとも会えて楽しそうである。自分より大きなニューファンドランド犬と向かい合った時はちょっとびびり気味だったけど、やがてメスのイエローラブを連れた女性が来店した時には甘え鳴き全開。
 聞けば11歳のおばあちゃん犬だそうで、のっそりと落ち着いた物腰の犬だった。目がハート型になったくろべーがしつこくすり寄るもんだから、ぷいっと飼い主さんの影に隠れてしまった。くろべーだってあと1カ月ちょっとで11歳だってのに、相変わらずちっとも落ち着かない。こういうのは飼い主に似てるというのだろーか……(あ、お互い白髪は増えたけど)


 30分以上たったので、そろそろクリームパンじゃーとパン屋に戻る。
 んがしかし、店の照明は消えてて「CLOSED」って看板が出され、窓のところには完売のため閉店って案内が出てる。さっきはクリームパン以外のパンなら結構あったってのに、おいらがコーヒー飲んでる間にきれいさっぱり売れちまったらしい。30分後といわれてきてみたら閉店ってのは結構ショッキングな光景であった。
 いくら人気店とはいえ、そんな風に売り切れるもんなのかーと驚いた。誰かパン食い大王みたいな人がきて根こそぎ買ってったのだろーか。このところ小澤俊夫さんの本を何冊か読んでるとこなので、何十個ものパンをばくばく食ってる山姥みたいな昔話風のイメージが浮かぶ。

改訂 昔話とは何か

改訂 昔話とは何か

 それでも今日がこの店に来る最後なのに、こんな形で立ち去るのは心残りである。一応店内に声をかけてみることにした。もうすぐ閉店ってことでスタンプカードと記念品を取り替えてくれるって話もあったし、もしかしたらおいらの分のクリームパンだけ取り置きしてくれてないかなーって期待もあったのだ。食い意地張ってるもんで、最後に1個だけでも食べたいなーって思いが強かった。
 すると、1個どころか3個出してもらった。おまけに「ちょっと色がついちゃったから無料で差し上げます」と言われてびっくり。それも焦げというほどのもんじゃなく、キツネ色がちょっと濃くなった程度で品質に問題あるとも思えない。『からすのパンやさん』みたいなもんで、むしろ美味しそうに見えたくらいだ。
からすのパンやさん (ビッグブック)

からすのパンやさん (ビッグブック)

 それを焼き立てのほかほか状態で、しかも只でいただけるなんて、それこそ昔話に出てきそうな展開である。一瞬、くろべーと分け合って3個とも食っちまおうかって考えも頭をよぎったが、両手にもって1個くわえてなんてことになったら自分がパン食い大魔王になりそーだ。ここは冬の間にお世話になったお宅にお裾分けしよーと思い、帰りがけに絵本カフェに寄っていくことにした。


 焼きたてのうちに、そしてご一家が昼食済ませて満腹になる前に、と思って帰路は速足で歩いたのだが、いつもより長い距離を歩いたせいか、くろべーはちょっとお疲れ気味。こういうところではもうじき11歳の老犬ぶりが分かるね。
 ついてみるとカフェのご一家のランチタイムはもう終わってたが、それでもデザートにどうぞってことで、コーヒー飲みつつ食べようってことに。焼き立てちょい焦げクリームパンを、人間たちと犬たちで分け合っていただきましたとさ。
 めでたしめでたし。