子兎の逃走と黒犬の回想

前に作った木彫り、結構似てて満足♪

 朝から雨である。梅雨は嫌だなーと思いつつ、もたもたと準備してくろべーと朝の散歩……と、くろべーがテラスから庭に向かってだだだっと飛び出した。
 何だろうと思ったら、くろべーが鼻面をつっこんだ茂みのあたりから、こっちに小さな生き物が逃げてきた。とっさにネズミかなと思ったが、よく見りゃ子ウサギである。まだ耳も短く、ネズミ並みに小さいが、ちゃんとウサギの顔をしている。必死で逃げてるしウサギだけあってすばっしこいのだが、よっぽど慌ててるのか時々転んだりしてる。
 北方謙三水滸伝』では、豪傑たちが旅の中で兎を獲って食糧にするシーンがたびたび出てくる。前脚が短くて後脚が長いため、坂の上から下に追い立てるとすぐに転がって簡単に捕獲できるって書いてあった覚えがあるが、その通りの光景だった。うちの庭は傾斜地になってるし、たまたま子ウサギが逃げ込んだ小道(そーいや道を作ったときは陶宗旺のことを連想したっけなあ)が下に向かってたため、ちょっと走るってえと見事に転ぶのである。
 その隙にくろべーが追いつく。老いたりとはいえレトリバーの血筋、普段ボールを追いかけてるのはこの時のためだと言わんばかりに興奮している。かといって、追いついてもどうしていいか分からず、子ウサギのにおいを嗅いでるだけ。野生のウサギにしたら食われると思うんだろうけど、僕としては目の前でスプラッターなシーンは見たくないので、くろべーに声かけて制止。こっちはこっちで、普段から散歩の時に3DSを持ち歩いてるのはこういう時に撮影するためなのだ。
 もっとも、悪天候の朝のせいで光量が少ない上、いざ撮影を始めたらあっという間に逃げられたので、まともな映像も画像も撮れなかったんだけどね……


 そーいえば先週、夕方の散歩の帰りにうちの近所で大人のウサギと遭遇した。一番近い人間宅より近くに兎の巣があるようで、こりゃあ御あいさつもしませんでと思ってたのだ。今朝の子ウサギはその巣で育ったのではなかろーか。
 大人ウサギは僕とくろべーに気付いたらぱっと姿を消しちゃったけど、そいつが僕らに見つかったのも、子ウサギを守るためだったのかもしれない。そろそろ巣立ちのシーズンってことで親が周囲を警戒したり囮になったりしてるせいで、普段だったら見つかるはずのない相手(間抜けな人間と黒犬のことね)の目にも触れたって推理もなりたつような気がする。
 その大人ウサギに比べると今朝の子ウサギはだいぶ頼りなかった。僕とくろべーからは逃れても猛禽類やキツネには捕まっちゃうんじゃないかと心配だけど、頑張って生き延びてまた遊びに来てほしいなーと思う。
 ちなみに、朝にウサギを獲り逃がしたレトリバーの末裔はというと、夕方散歩のときもなごり惜しげに庭のにおいを嗅ぎまわっていた。子ウサギ発見地点や転倒地点を重点的にチェックしてるのは、獲物のにおいが残ってるのか狩りの記憶を辿ってるのか……