くろべー洗浄とくまさん警報

この背景のあたりが熊目撃地点

 世間じゃ猛暑らしいが、ここらじゃ爽やかな高原の風が吹いて気持ちいい天気である。午後の仕事を終えたらくろべーをシャンプーして天日で乾かそう……と思ってたが、なかなか机の前を離れられずにいるうちに夕方になっちまった。
 それでも洗うのじゃーと、散歩の前に黒犬をふんづかまえて風呂場へ。おいらも裸になってで共に泡まみれになってたら、玄関でノックの音が。慌ててバスローブを羽織って出てみたら、この別荘地の管理事務所長の御来訪だった。しかも告げられた話が話である。
「今日、この近くで熊が目撃されました」
「え……くろべーじゃなくて?」
「熊です。親子連れだそうで、攻撃的になることがあるので注意してください」
「注意ったって……犬連れで歩く以外に何かできることってありますか?」
「さあ……あんまり下まではこないと思うんですけどねえ」
 下までこないって言ったって、目撃された場所を聞いてみたら、今朝くろべーと僕がサッカーボールを追っかけて遊んでたすぐそばである。人間だと道路沿いに移動して結構かかるけど、熊なら森の斜面を突っ切って直線距離にしてほんの数十メートル。ことによるとニアミスしてたのかもしれない。まあ普通は野生の熊の方で人間を避けるそうだし、犬と遊んでる気配なんかしたら近寄ってはこないと思うけど……
 目撃者はこの別荘地に出入りしている塗装業者らしく、別荘の補修作業をしてる時に親子熊を目撃したんだとか。沢伝いにこの別荘地までやってきた後、親熊ははさっと道路を渡ったが、子熊は道路あたりで遊んでてなかなか動かないもんで、親もその周辺をぐるぐる歩き回ってたらしい。そういうところに出くわしたが最後、親は子を守るために攻撃をしかけてきたりするんだそうな……


 まあしかし、風呂場に戻ってシャンプーを終えた後は、熊情報にめげずに散歩に出た。野生動物と遭遇する可能性なんて常にあるわけだし、出くわした途端に死ぬときまったもんでもない。交通事故が怖いからって一歩も外出しない都会人ってのはそうそういないのと同じで、田舎人も熊が目撃されたからって家にこもりはしないのだ。
 それに実際問題として、風呂上がりのくろべーを家の中だけで乾かすのは大変なのである。人間の髪にしたら数十人分はあろうという毛が全身に生えてるわけで、拭いても拭いてもそう簡単に水気はとれず、ぶるぶるっと体を震わせりゃああたり一面水しぶきだらけ、おまけにシャンプー後は妙に抜け毛が激しいので、後始末だけでも大変ってことになる。それくらいなら熊と戦った方がましって気になって、いくぞーと外出。一応、森の中で熊さんと出会っちまった場合の準備として、カメラモードにしたケータイとビデオ撮影モードにした3DSを持参しておいたけど。
 幸い熊と遭遇することはなかったが、散歩中に管理事務所の車とすれちがった。運転してたのはさっき我が家にきてくれた管理事務所長さんで、僕とくろべーに気付くと笑顔ですれちがってくれた。せっかく注意喚起したのに仕方ないなと思われたのかもしれんが、まあ地元感覚ってそんなもんなんじゃなかろうか……