風の心地いい公園と姿の見えない黒犬

ダンサーは躍る前に履物を脱ぐんだね

 昼から下山、川の近くで開かれているイベントへ。
 こっちに越してきた頃から、毎年夏になると川沿いの公園で野外ステージイベントが開かれているのは知っていた。しかし「下山すると暑い」とか「そんなイベントは道も会場も混んでて大変に決まってる」とか、なんだかんだ理由をつけて行かずにいた。今年はいくつか理由が重なって行くことにしたんだけど――これが正解。というか、今まで行かなかったのは間違いだったと思うほど気持ちいいイベントだった。
 まず、ここらの道路は確かに観光シーズンの混み方をしてるけど、僕自身がずいぶんと裏道に詳しくなったのでうまい具合にすいすい走れた。会場はそれなりに人出もあったが、早めのタイミングで動いたせいで混雑を不快に思うほどではなく、知人と挨拶したり露店で買物したり、いい感じで過ごすことができた。
 いい天気だったので日向にいるとそりゃあ暑いんだけど、今日は風がある上に川のほとりの開けた場所なので風がとても気持ちいい。日陰にいれば汗もかかないような快適さである。ちょうどいい具合にステージ脇の桜の木陰にベンチがあって、そこに陣取って各種パフォーマンスを見物したり、露店で飲み食いしたり。
 舞台袖みたいな位置の特等席だったので、演奏後のミュージシャンや本番前のダンサーの様子を見られるのもなかなか興味深い。野外ステージならではの演奏やパフォーマンスが楽しかったこともあり、暑かったら用事を済ませてすぐ退散しようかと思ってたわりに、なんだかんだで3時間以上いたのかなあ。
 一つだけ残念だったのは、車で来てるせいでアルコール類に手を出せなかったこと。露店は料理は限られてるわりに酒類は妙に充実してたし、この天気でビールを飲めないのはいかにもつらい。来年は是非、誰かの車に便乗して来たいもんだと思う。


 日の暮れる前には帰宅してくろべーの散歩と食事の面倒を見てやらねば……と思っていたが、帰宅する頃には夕立でどしゃぶり。空は真っ暗井になり雨はざあざあ、視界がろくにきかないほどで、後部ドアが半ドアだったせいで車内に雨盛りまでしやがった。
 まいったなーと、雨に濡れつつ帰宅。玄関の扉をあけると、いつもと様子が違う。大喜びで飛び出してくるはずのくろべーの気配がないのだ。姿が見えず声もせず、一体どうしたんだと戸惑った。
 このところ復調してたとはいえ、また体調を崩してるのかなとか、空き巣でも入って連れ去られたか逃げ出したかしたのかなとか、短い間にいろんな想像が頭をよぎる。とりあえず一階に全く気配がないので、階段を上がって様子を見に行く。
 と、仕事部屋に寝ぼけ眼の黒犬の姿が。――今日は暑くなかったせいで、二階で昼寝してたらしい。雨音が激しいせいで僕の帰宅の気配に気付かず、そのまま眠りこけてたようだ。階段を上がる足音でよーやく気付いたってわけで、脅かしやがってこんにゃろーと思うことしばし。
 雨にぬれたタケウチがほっと一息つく脇で、くろべーはいつものように、ワホワホ喜んでグルグル歩きまわっておりましたとさ。