飲み比べ即売会とモテモテ玉子酒

元スーパーの店舗が楽しい酒場に

 あいにくの天気の中、くろべーの夕方散歩を早めに済ませ、電車に乗ってお出かけ。――図書館で小澤俊夫さん主宰の雑誌のバックナンバーを読みふけった後、「福島地酒飲み比べ即売会」ってイベントへ。
 最初に街角でこの企画のポスターを見かけた時、「入場料¥1500」なんて書いてあったのを見て、入るだけでそんな金とられるんじゃ高えなーと思ってた。しかし買物にいった蔵元でその話題が出た時、スタッフのお姉さんが「入場後はどんな純米大吟醸でも試飲し放題でお料理もたっぷり出て、すごくお買い得ですよ」と教えてくれた。入るだけで金とるのかと思ったのは素人もいいとこで、入りさえすりゃ金とられないってんだからありがたい話で、その蔵元で前売券を買って楽しみにしてたのである。
 開場時間直後に入ってみると、開場は既に賑わってる。地酒飲み比べってだけあって県内の二十何軒だかの蔵元が集合してて、そのスタッフだけでも結構な人数なのだ。お惣菜を作るスタッフも忙しく働いておられるし、僕がたまにいく美味しい蕎麦屋さんも出店してる。いつもは金払って食べてる蕎麦まで食べ放題かーと感動しちまった。
 開場は六時で開始は六時半と書いてあったわりに、開場した時点で飲み食いを始めてもいいらしい。早速前売券を買った蔵元で新酒をいただき、お惣菜をつまんで一杯。うまいー♪
 なにしろ二十軒以上の蔵元だそーなので、あっちで一杯こっちで一杯と回ってるとすぐに酔いが回ってくる。六時半開始ってのは主催者挨拶と乾杯の仕切りが入るタイミングだったが、その頃には会場全体が既にほろ酔い機嫌って感じだった。
 その乾杯の掛け声、「かんぱーい」ではなく、「がんばろー!」だったのが印象的だった。――参加してる蔵元には震災で設備や製品に被害を受けたところも多いし、その後の風評被害については業界全体が打撃を受けてるらしい(特に関西方面の人が福島の産品を買わなくなったとか)。それでも恨み事ひとつ言わず、笑顔で「がんばろう」と言える人たちが頑張ってる姿には尊敬をおぼえる。美味しく飲み食いさせてもらいつつ、こういう場にいられることが本当にありがたいと思えた。


 先日の総選挙、原発推進責任政党である自民党がタナボタ式に圧勝したろくでもない選挙結果を受けて、“福島県民は全員県外に脱出しなはれ”などと言ってた馬鹿関西人がいた。その論拠は“そうすれば政治家どもが困るから”だそうな。なんと幼稚で無神経かつ実効性すらない暴論だろうと呆れたが、言ってる本人は正しいことを主張してるかのようにご満悦な様がなんともトホホな光景であった。
 おそらくそいつの小容量の脳味噌には、“政治家の悪口いってりゃ自分は正義”っていう短絡的な世界観くらいしか入ってないのだろう。無神経な暴論を風刺とでも勘違いしてるのかもしれない。帰りたくても帰れない避難民が何万人もいることとか、復興に向けて「がんばろう」と言ってる人がいるなんてことは知らないどころか想像もできないんじゃなかろうか。
 そいつの話は極端な例だけど、震災の被害報道や原発にまつわる構造腐敗の報道にともなって、身勝手な正義感が幅をきかせる風潮が鼻につくようになってきた。政治家・電力会社・マスコミあたりを罵ってりゃ自分は正義って思いこんでるようで、社会悪を声高に叫ぶだけならまだしも、そのうち他人に口出ししはじめる奴も少なくない。どっかで読みかじった知識をだらだら並べたあげく、それに感心されなきゃ人を罵って悦に入ってる、なんて奴が周りにいると結構迷惑だ。――そういう相手にゃ、「震災後の不安を悪意に変えて誰かにぶつけたいんじゃねーの?」とか、「自分も電気の恩恵受けてることの罪悪感をまぎらわそーとしてるね」とか言いたくなってくる。
 そして不思議なことに、福島に来てからはあんまりそういう、身勝手な正義感を目にしなくなった気がする。もちろん福島の人は聖人君子そろいってわけじゃなかろーし、やりきれない思いや怒りや恨みもあるんだろうけど、実際に前に向かって動き出してる現実の中では役に立たない悪意が表面化する機会が少ないみたいだ。


 ま、面倒くさい話はおいといて。
 文字通りいろんな酒をたっぷりと飲み比べた結果、おいらが一番人にすすめたくなったのは、二本松市の奥の松酒造の「純米大吟醸スパークリング」ってお酒であった。なんとも爽やかなフルーティーさで、穏やかに弾ける泡が舌に心地いい。確かにお米のお酒なのに、上品なマスカットみたいな香りがあって、下手なシャンパンよりよっぽど美味い。聞けばバイクレースの表彰台でシャンパンファイトのかわりにこのお酒を使ったりするんだそーで、そりゃあ日本で開催するレースならこういうお酒を使うべきだよなーと納得してしまった。
 おかわりさせてもらいつつ、スタッフさんにいろいろ話を聞かせてもらったんだけど、このお酒はネット通販でも買えるようだし、290ミリの小瓶だったら588円っていう手頃な価格なんだとか。ご興味おありの方は是非お買い求めあれ。
 あと、感動したのは「キヨばあちゃん(88歳)のたまご酒」。これ、冗談抜きで、僕がこれまで飲んだ玉子酒の中で一番美味かった。もっともおかわりして飲んだのはこの酒だったし、同じように思う人は多いらしくてたくさんの人が集まって笑顔で飲んでいた。
 玉子酒ってえと風邪の時に飲む薬で、なんとなく生臭いって印象があったんだけど、それは材料や作り方に問題があったようだ。いい酒つかって丁寧に作ればこんなに美味いのかーと、感心しきり。これはそのうち自分でも作ってみたいなーと、レシピをしっかり取材しておいた。(つうかそんなに難しい作り方じゃないんだけど、それでしっかりおいしいのがすごい)
 その最中、和服姿の司会者の方がマイク片手に寄ってきた。「お風邪の時にこんな玉子酒を作ってくれる女性はどうですか?」などと尋ねられ、「最高ですね、イチコロです」なんて答えといたけど、そーいやお菓子作りが趣味って女性はいても玉子酒を作る女性って少ない気がする。まあ趣味の問題だけど、妙に手の込んだケーキを焼くより、こういう玉子酒を作れる人の方が尊敬できる気がするなー。
 プロフィール欄に「特技:美味しい玉子酒を作ること」なんて書いとくと、きっとモテると思うんだけど、どーなんだろう。婚活中の方は是非お試しあれ。