くろべーの還暦とニュー橋の開通

川をわたる風のにおいを嗅いでます

 くろべー12歳の誕生日。十二年といえば十二支が一回りするわけで、犬における還暦ってことにした。僕の個人的なルールだが、とにかくめでたい。
 ちなみに人間の場合は十干十二支で考えて、10と12の最小公倍数だから60年で還暦ってことになってるそうだ。しかし十二支ってのは「子丑寅卯……」ってやつで動物キャラだからイメージわきやすいけど、十干ってのは「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」ってことでどーもピンとこない。「甲乙丙丁……」ってのは古いタイプの等級分けに使われてるけど、他は日常的に使う日本語にはあんまり出てこないもんな。ずらっと並んだ十干十二支の表の読み仮名欄を眺め、何か聞き覚えのある言葉はあるかなーと思ったら、目についたのは「ひのえうま」って言葉くらいだった。いやこの言葉だって、決して一般的な用語はいえず、ごく特殊な場合しか使わないともいえそうだ。漢文読みなら「シンガイ」とか「ボシン」とかは革命やら戦争やらの名前についてるけど、これも固有名詞みたいなもんだもんなあ。
 で、十干ってのは何かといえば五行×2(陰と陽の2つ)で十干なんだそーで、じゃあ五行って何かといえば世界の五大構成要素である「木火土金水」なんだとか。なんだかフィフスエレメントみたいな話だが、一週間の七曜日から日月の天体を抜かした5要素ってことになるようだ。そういや日曜と月曜は地球外の天体で、他は地球上にあるもんなんだなー。
 まあ、何はともあれ。――十二支の方は犬も入ってるけど、十干の方は犬は入れてくれてないんだから、そっちを考慮してやる義理はない。大型犬は10年も生きれば御の字といわれてる中、12年も生きてるんだから、くろべーは今日で還暦ってことで祝ってやってもいいではないかと思うのだ。


 僕が彼を引きとったのは2歳になった直後だった。茨城で生まれて徳島で育ち、千葉へとやってきて僕と暮らし始めたのだ。僕と出会うまでもいろいろ変転いっぱいの生活だったわけだし、僕も何かと問題のある飼い主だったわけだけど、そんな中で明るく気さくな性格で暮らしてくれて、今も元気でいるのは何よりありがたい。
 顎の下とか眉のあたりとかはすっかり白髪も増えたし、去年の夏はエプリスの手術もあったし、このところ老けこんできたなーってところも目につく。散歩の時も、興奮したり好奇心がうずいたりしてる時のほかは随分と歩くペースが落ちた。坂道や階段が負担なようにも見えるし、わざとのそのそしてるように歩いてるようにも思えたりする。それでも散歩には行きたがり、他の動物を見るとすりよりたがり、雌犬を見ると目の色を変えるのは、気が若いってことなのかな。
 町暮らしの時はそうもいかないけど、山荘に戻ってからはなるべくノーリードで散歩することにしていて、マイペースで歩かせてやっている。進むのは遅くなったけど、あたりのにおいを嗅ぎつつ楽しげに歩いているのは何よりで、距離や坂道の傾斜具合を考慮してコースを決めている。こうして一緒に山道を歩いていられるのもいつまでかなーと思うと切なくなるが、そのぶん今のうちにたっぷり楽しんでおかんとな。


 つうわけで、午前中だけ仕事してたけど、昼頃に宅配便の配達が来たのを潮に切り上げた。届いたのは犬用おもちゃのコングってやつで、冬の間に壊れたので新品を買って誕生日に届くようにしといたのだ。――これまでは新品のおもちゃを買うと、なるべく壊さず長いこと使ってくれよと思ったもんだが、還暦を過ぎた以上は、元気なうちにたっぷり噛んでどうぞぶっ壊してくれという気持ちでプレゼント。
 で、そういうもんが届いたた以上、こっからはお遊びの時間である。執筆なんざ放り出し、くろべーと共に車に乗り込んだ。昼飯もまだだし買い出しもしときたいし、ちょいと下山するかって気持ちで出発、まずは川に向かう。
 この川にかかる橋が老朽化してて、随分前から新しい橋をかける工事をしてたんだけど、最近ようやく開通したらしい。おニューの橋を渡ってこりゃあ走りやすくなったなーと感動、川原におりてぶらぶらと渓流散策。新しい橋を見上げたり、ここは今頃桜が咲いてるなーと思ったり。まだ水が冷たくて泳ぐには早いけど、それでも眺めのいいとこで歩くのは気持ちいいもんだ。
 もっとも、くろべーの方は特に風景に興味はないようだ。川原でもやることはもっぱらにおい嗅ぎのようだけど、川原のにおいはまた違うもんなのかなー。