ストロークの不快音とアルペジオの意外性

不思議とサイズ感が似ている

 一五一会という楽器を買った。
 こないだ友人と上々颱風のことを喋ってたら、何故か『島人ぬ宝』を聴きたくなり、そりゃあBEGINだろと自分で突っ込みつつBEGINのCDの棚を探していたら『ビギンの一五一会』というCD

一五一会

一五一会

が見つかった。ああこれなら『島人ぬ宝』が入ってると思って聴いてるうちに、ふとライナーノーツの文章が目についた。――タイトルの一五一会ってのは楽器の名前で、世界一簡単に弾き語りができる楽器として開発されたらしい。『恋しくて』だったら三十分で弾き語りできるようになるらしい。
 ほんとかなーと思ってネットで調べてみたら、楽しげに弾いてる人たちの動画がぞろぞろ出てきた。基本的に好評なようだし、技術に関係なく弾き語りしてる姿に好感がもてる。――こういう場合、上手い人が見事に弾くより、下手な人が楽しく弾いてるこってことが嬉しく思えるね。
 もちろん否定的な意見を書いてる人もいたけれど、そういう場合は最初からギター等の弦楽器を弾ける上で「物足りない」みたいなことを言ってるようだ。なら最初からギターが弾けない身には関係ないし、「簡単に弾けると言われて買ったのに弾けなかった」って人は見当たらない。だったら買ってもいいかなーと思い、ちょっといいことあった日に勢いで注文しちゃったのだった。
 おそらく僕のように「本当に弾けるの?」って思ったり、購入を検討したりって人はいると思うので、参考までにいろいろ記録しとこうと思います。ギター弾けない・楽譜読めない・楽器の素養がまるでないと三拍子揃ったおいらは、果たして三十分で『恋しくて』は弾けたのか?


 結論からいうと、弾けやしなかった!
 一昨日に届いたので、早速弾いてみたんだけど、三十分すぎる頃には絶望的な気分でビールを飲み始めたってのが事実である。
 まあ、「だから三十分では弾けない楽器なのだ」と言い切っちまうと語弊があるかもしれない。コードを押さえることはできるし(なにしろ指一本で押さえられるように設計されている)、単純なストロークでいいならリズム通りに進んでいくのも簡単である。それをして「弾けた」と呼んでいいなら確かに、三十分くらいで何とかなるのだろう。しかし僕の場合、自分でも「こんなもんで弾けたと言ったら罰が当たる」って音しか出なかったのだ。
 なにしろストロークが下手でまともな音が出ない。指一本で押さえられるコードもきちっと押さえ切れてないらしく、「どうして開放弦から高音のコードに移ったのに音が低くなるのだ?」とか「ジャラーンと雰囲気よく鳴らしたつもりが、何故ポコッという間抜けな音が響くのだ?」とかいうレベル。
 そりゃまあ、無理やり歌を歌って、それに合わせて鳴らすことくらいならできる。しかし、BEGINが弾いてる時にはきれいな音を出してる一五一会なのに、僕が弾くと音が汚い。はっきりいって弦の音が耳触りで、弾き語りしてる本人が「楽器うるせえよ」と思っちゃうほどである。――人里離れた森の山荘だから夜でも平気で弾いてられたけど、都会の密集地で弾いてたらご近所トラブルを巻き起こして殺人事件の被害者になってることだろう。心なしか、同居犬のくろべーも演奏音がうるさいらしくて迷惑そうな顔をしていた。
 この絶望的なストロークの下手さとコード押さえの甘さはどうやって改善できるのだろーと、ネットで調べてみた。人によっていろんな意見はあるけれど、結論としては「いっぱい弾いて慣れろ」ってことのようである。一五一会の「誰でも弾ける」とか「三十分で『恋しくて』が弾ける」ってのは、この「いっぱい弾いて慣れる」ってところが含まれてないのだな。
 これは僕の想像だけど、開発や制作・販売に携わってるのはギターを弾ける人ばかりだろうから、弦を押さえるとか鳴らすとかは当然できることと考えられてるんだろうなあ。そのへんの感覚は、外国語会話において「声を出す方法」とか「唇を開く方法」なんてことに言及されないのと一緒だろう。そんなもんはできるのが前提なんだろーけど、俺の場合はできねーんだよってことって、世の中には結構あるんじゃなかろーか。(あるよね?)


 まあそれでも、懲りずに弾いてるうちにだんだん進歩はしてるようである。
 相変わらずストロークは下手なおいらだが、三日目の今日、試しに弾き方をアルペジオに変えてみたら意外とまともな音が出た。素人考えで、ストロークに比べてアルペジオの方が難しい技術だと思い込んでたので、こういう意外性は嬉しい。あるいは世界一簡単な楽器に対して僕は世界一ストロークが下手ってだけのことなのかもしれんけど。
 何はともあれ、これならストロークよりアルペジオの方がいいやと、弾き方DVDで比嘉栄昇さんがやってる弾き方を真似て『故郷』(「こきょう」じゃなくて「ふるさと」、ウサギが美味しいって唱歌ね)をアルペジオで弾いてみる。――そしたら、なんとか不快音ぬきでフルコーラス弾き語ることができたではないか!

 「三十分で『恋しくて』が弾ける」に比べたらはるかに低次元だと思うけど、「三日目の朝に『故郷』が弾けた」ってのを、一つのケーススタディーとして記録しとこーと思います。