定演の感動と会釈の習慣

サンバ・デ・ジャネイロの盛り上がり

 こないだのブログで、音楽づいてるって話を書いたけど、その続き。
 あの翌日には大田原高校吹奏楽部の定期演奏会に行った。もちろん吹奏楽小説の取材って意味もあるし、会場の那須野が原ハーモニーホールってとこにもいっぺん行ってみたかったのだ。なんでも日本でも指折りの、パイプオルガンを備えた立派なホールらしいし、入場無料ってことなんで今がチャンスって気分で出かけた。
 だから演目そのものにはそんなに期待してるってほどじゃなく、勉強や見物のつもりだったんだけど、これが意外なほどいいステージだった。単純に観客として楽しかったし、心地よく音楽を楽しんで感動さえ胸に宿して帰ることができた。――こういう感覚って、金払って行くライブでも久しく感じてなかった気がする。
 ゲストとしてプロのピアニスト、伊藤伸さんが出てたってのも大きいんだろうけど、それだけじゃない。高校生バンド(といいつつOBも結構出てたけど)がプロとの共演に緊張したり、それでいて一緒に演奏できることを喜んでたりする気持ちがストレートに客席にまで伝わってきて、客席にいながらそういう感情を擬似体験できるって意味で感動的なステージだったと思うのだ。
 特に、彼らの昨年の演奏がユーチューブで何十万アクセスも記録してるらしい『千本桜』はパーカッションの各楽器がこれでもかってくらい楽しかったし、アンコール曲の『サンバ・デ・ジャネイロ』はそういう楽しさがバンド全体から漂ってくるようだった。定演をやり遂げたっていう達成感や解放感もあるんだろうけど、見ているこっちまでそういう感覚を共有できちゃうのって、やっぱり音楽の力だよね。
 僕は音楽性の高さとか技術的なことはさっぱり分からないけれど、それでもうまいなーと思える演奏はたくさんあったし、音楽を楽しんでるってことが伝わってくるのが素晴らしいなーと思う。連載中の吹奏楽小説でも、音楽を楽しむってことを一つ大きなテーマにしようと思ってるので、いろんな意味でとても勉強になった。


 で、今日はその大田原高校にお邪魔して、吹奏楽部の練習の様子を見学させてもらうことに。――こないだ初めて知ったバンドなのに、1週間もたたないうちに取材できるなんてありがたいかぎり。
 いろいろ物騒なご時世だから、部外者を校内に入れることに対してとても厳しい学校も多いんだけど(出版社を通して取材を申し込んでも実現しない場合も多い)、大高はとてもフランクだった。ツイッターで定演の感想をつぶやいといたら→あっという間に結構なリツイートがついて→辿ってみたら出演者のアカウントも結構多く→そんならと取材を申し込んでみたところ→わざわざ顧問の先生に取り次いでくれた部員さんがいて→先生もとても親切に対応してくださって→小雨模様の午後に大田原高校を訪れることになった。
 高校の校舎に入るのなって何年ぶりだろうと思っちゃうけど、大田原高校の生徒さんの礼儀正しさにまず驚いた。彼らからしたら僕なんて見知らぬ部外者でしかなかろうに、廊下や階段ですれ違う誰もが会釈や挨拶をしてくれる。何だこいつはって訝しんだり怪しんだりして不思議はないとこだし、実際事務室の人とか先生らしき運動着の人とかはそういう感じの視線を向けてきたのだけれど、生徒は一様にぺこりと頭を下げてくる。それに応じてこっちも会釈するような格好で、これじゃどっちが大人か分からんなーと思う。
 顧問の先生に案内していただいたのは、「演奏室」と張り紙のある教室。入室前から吹奏楽部ならではの練習の音に圧倒されたし。中に入ると、楽器の光沢の中で学生服の黒さが圧倒的。そしてやっぱり、部員たちもとても礼儀正しくて、声を揃えて挨拶してきてくれた音量に圧倒されてしまった。
 先生から、「じゃあ挨拶を」なんて振られてしどろもどろで自己紹介。ささっと椅子を出してくれた部員さんがいたので、そこに腰かけて見学。先生と部員たちはすぐに練習に突入。――音楽をやってる部だけあって、そういう一連の流れがとてもきびきびしててテンポがいい。
 彼らが練習してたのは、新入生への部活紹介のステージ演奏だった。練習を見ているだけでもいろいろ興味深かったし、狭い室内で練習されてる楽器の音は結構な迫力で、楽しい時間を過ごすことができた。演奏の最中、部長さんが勧誘の台詞を語る場面なんかもあって、思わず入部したくなっちまったほどである。
 合奏→先生のコメント・ダメ出し→当該個所の洗い出しや演奏し直し→いったん解散して個別・パート・セクション練習って感じの流れだったんだけど、僕は折を見て部員さんたちに声かけてインタビュー。ここでも皆さんとても親切に応じてくれて、初歩的な質問にもいろいろ丁寧に教えてくれた。
 ついでに、すれ違う生徒たちが一様に礼儀正しいことについても尋ねてみた。学校としてそういう教育をしてるのかなーと思ったんだけど、特に厳しく言われてるわけじゃなく、習慣としてそういう感じになってるんだそうな。それだけでいい学校なんだなあと思える。まあこの学校に限った話ではないのかもしれんけど、俺の十代の頃なんて、あんなにきちんと敬語も使えなきゃあ挨拶もできなかったってことは自信を持っていえちゃいそうだ。
 そんなこんなで取材を終えた帰り際、顧問の先生へのご挨拶に職員室に入ったけど、職員室ってこの歳になっても変な緊張を覚えてしまうもんである。無意識的に「怒られる!」って身構えてる自分がいるんだけど、考えてみりゃあ周りの教職員の方々は結構な確率で年下なんだよな。生徒さんたちとは親子ほども年の差があるわけだし、なんだかふっと浦島太郎みたいな気分になった。