『カレーライフ』上京とブルーパブ散策

UP主ごとに微妙に異なる集合写真

 朝からカレー食って上京。舞台『カレーライフ』2015年版の顔寄せ&本読みの日だから、験担ぎで朝からカレー……というわけでもない。留守の間、友人がくろべーの面倒をみにきてくれることになったので、滞在中の食事にどーぞってことでスパイスから一鍋作っといたのだ。

カレーライフ (集英社文庫)

カレーライフ (集英社文庫)

 日頃滅多に上京しない身なので、せっかくだから他の用事や楽しみも兼ねることにした。昼前に東京に着いて他の仕事の打ち合わせをしたり駅前散策&食べ歩きを楽しんだり。おかげで稽古の後で寄りたくなるよな美味しい店に立て続けで遭遇できて、これから稽古場に通う人が羨ましくなっちゃった。
 昼食をとった、カウンター型のお寿司屋さんは自家製筋子穴子の握りが絶品。お任せコースっぽい流れで筋子の握りが出てきたんだけど、これが生まれて初めて筋子のお寿司が美味しいと思えたほどの味で、これほど味付けが上手なお店ならアナゴも食べずにゃおられんって感じだった(僕はウナギよりもアナゴが好きなのだ)。穴子寿司も普通にふっくらおいしいだけじゃなく、最初の1貫は塩味で煮てあるとこに柚子の風味をきかせてさっぱりまとめ、次の一環は甘辛いツメでしっかり味付けって感じのコンビネーションが絶妙。……是非また来たいと思った店だったし、稽古の後でご馳走って時にぴったりって気がするので関係者におすすめ。(詳しい場所等はおいらにお問い合わせあれ)
 食事の後、喫茶店で打ち合わせ。連載小説『ホラベンチャー!』の終盤についての相談の他、春に刊行した『ぱらっぱフーガ』が、早くも神奈川県の高校入試の試験問題になったという事後報告の書類を渡されてびっくり。いや試験問題になることにはすっかり慣れたし、試験の性質上事後報告も当然なんだけど……僕にしちゃあラブシーンの多い『ぱらっぱフーガ』は試験問題にゃあなりづらいかと思ってたのだ。秋のこの時期に入試をやってるってことも意外っちゃあ意外。またこの試験問題の文章が結構難しいんだよね。いや僕の文章は別に難しいこたあ書いてないけど、設問や選択肢の文章を読解するのが大変そうというか。
ぱらっぱフーガ

ぱらっぱフーガ

 そんな話の最中、プロデューサーから電話がかかってきた。ちゃんと来てるかどうか確認だったので「近所の喫茶店にいますよー」と答え、時間ぴったりに行ってみたのだが、既にキャストスタッフ勢ぞろい状態で、どーやら僕が最後だったらしい。おまけに素人なもんで、土足禁止の稽古場に靴のまま入っちゃってたのを注意され、入場したその瞬間から大汗かいちゃった。
 初演の時の顔寄せに比べると、ちょっと小さめの会場(大きいとこは他のことで塞がってたみたい)で、人数もちょっと少なめで和やかな雰囲気だった。初演の時は参加者みんな「よろしくお願いします」と一礼する以外は発言しないような緊張感ある雰囲気だったんだけど、今回はもっとリラックスできてほっとした。前回の雰囲気で遅刻(いや今回は定刻到着で遅刻ではないんだけど)や土足をやらかしてたら、もっともっと汗かいてただろーな。
 稽古場中央にロの字型に長テーブルが組まれ、その3辺を役者さんたちが占め、残る1辺に演出助手・演出・脚本・原作と並ぶ形だった。演出家の正面には座長の玉城裕規さん、その後ろには芸能事務所関係者や主催・協賛企業関係者が並び、演出家の松森さんの後ろにはスタッフ陣の席が並んで、全体的にはキャストとスタッフが向かい合う形になっている。そしてプロデューサー陣の席は審判のように側辺に用意されてて、なるほどキャストとスタッフを結ぶ役割なのかーと、ヴィジュアル的に納得するのはちょっとした社会見学気分。演出家・原作者・脚本家と挨拶する場面もあったりしたんだけど、真面目に語るお二人の間で一人笑いをとりにいってた原作者のおいらであった。


 顔寄せの後、休憩を挟んで本読み開始。今回の上京のメインの目的はこのイベントである。プロの役者さんが僕の書いたストーリーやセリフを読んでくれるだけでも面白くて勉強になるし、稽古で練り上げる前のファーストアプローチってことでいろいろ発見があるものなのだ。
 例えば演技と朗読の割合が人によって違う。別に何が正解ってわけでもないから、役者それぞれの性格やアプローチ次第なんだろう。既に台詞が入ってる気配を漂わせる役者さんもいるし、台詞に表情や仕草を交える人もいれば、ぐわっと台本に見入って朗読感満点の人もいる。他の役者の台詞に挑みかかるように間を詰めて食い気味に喋っったり、掛け合いの中でテンポアップしていったり、そういう化学反応も面白い。
 序盤、みんな真面目に感情込めて読んでるのを聞きながら、内心で「いやいや、そんなシリアスじゃなくてもっと軽くまくしたてたり、ボケとツッコミを際立たせたりしてほしいなー」なんて思ってた僕だけど、考えてみればこれは僕自身への反省でもある。コメディーを書きたいと思いつつそこに徹底できず、日頃から小説って形式の中でシリアスとコミカルのせめぎ合いをしながら書いてるとこがあるのだ。『カレーライフ』を書いた時もまさにそうだったし、その感覚が本読みの場で立体的に立ち上がってくるようだった。「その長台詞は単なる説明にならないように、時にコミカルに時に唄うように」なんて思ってたのは、自分の小説にもそのまま当てはまる注意事項な気がするなあ。
 そんな中、ふっと隣の席のシミズ役・俊藤光利さんの忍び笑い頻度が高いことに気づいた。キャストやスタッフの言い方や反応に目敏く気づいてくすっとしてることが多くて、横の僕にまで面白さが伝わってくるのが楽しい。自分の台詞でも時々笑いをとってたし、シリアス系の男前に見えてコメディーもいける役者さんなのかもしれない。
 笑いといえば、たぶん一番笑いをとってたのは何役もこなしてた内田亜希子さんの終盤のアプローチだった気がする。思いもよらぬ役作りというか……声色ひとつでみんなの意表をついて笑いを誘ってる様が見事だった。誰も思いつかなかったけど、別に脚本から外れてるわけじゃないし、そういう役作りもありなんだよなーと目から鱗。今後稽古を経てその演技プランが生き残るかどーかは不明だけど、個人的にはまたどこかで耳にしてみたいなあ。
 休憩中、何かの拍子に内田さんと喋ることができたので、さっきの演技がどういう設定だったのかお尋ねしてみた。他の役者との関係性にも思わぬ物語があってさらに笑わせてもらえたし、僕が現在連載中の『ホラベンチャー!』の話題になったら読んでくれるって言ってもらえて嬉しいかぎり。いやこれからの稽古で忙しくなったら読んでる余裕ないかもしれないけど、僕の中で「今後『ホラベンチャー!』が舞台化や映像化されるとしたらヒロイン希未を演じてほしい女優さんNO1」は内田さんになりました。――つい長くなりがちなせいで短くまとめろと言われてる連載の中、ヒロインの出番はどんどん減っちゃってるんだけども。
 女優さんといえば、本読みがラストまで行った後で演出と役者で演技の掘り下げというか質疑応答みたいな時間があったんだけど、その時に岡本玲さんから「ヒカリは妹がいるんですよね?」と尋ねられて驚いた。ヒカリの妹って、原作には出てるけど舞台には出てこないキャラクターなのだ。だけど妹の存在を踏まえてヒカリの内面を掘り下げると、他の従兄弟に対する態度につながっていく。僕は原作でも脚本でも「お姉さん型」って設定だけで書いたところがある気がするんだけど、役者さんはそこからもう一段深めて内面の動機づけをしてくれてるのだ。さすがだなーと思ったし、そういうアプローチって書き手としてすごく勉強になる。


 てなわけで、いろいろ楽しく有意義だった時間が過ぎて、夕方に「お先に失礼しまーす」と稽古場を出たんだけど、頭の中がちょっと知恵熱な感じの高揚状態だったので、街をぶらついてクールダウンしていくことにした。
 都内某駅の駅前は、細い路地が入り組んでてそこでいろんな店がやってる、下町の賑わいあふれる街である。夜中はちょっとおっかなそうだけど、軽く飲み食い一杯飲もうと思うと魅力的な散策スポットなので、このまま帰ったらもったいない。おでん種屋さん(おでん屋ではなくおでんの具を揚げたてで売ってる)でツマミを買って立ち食い、ブルワリーパブで軽くビールをひっかけて、〆はやっぱりカレーでしょってことでカレースタンドで昔懐かしいカレーライス。黄色の強い、ターメリックのカレー粉たっぷりのカレーに満足して帰りの電車に乗り込んだ。
 ちなみに、このブルーパブは稽古場からもそう遠くないし、オリジナルのエールや世界各国のクラフトビールが置いてある名店だった。散策してるうちに見つけ、英国パブ風の店構えに一目でひかれたんだけど、店名をよく見りゃ前にビール関係の文献で紹介されてた店で、こりゃあまっすぐ帰ったりしないでよかった。『ビールボーイズ』作者として是非チェックしときたい店である。――美味しいクラフトビールを揃えてる上に英国パブ式に個別会計可能で「乾杯だけ奢る」とか「料理だけ奢る」とかが可能な店ので、稽古帰りに一杯やりたい関係者に是非おすすめであります。(こちらも詳しい場所等はおいらにお問い合わせあれ)

ビールボーイズ

ビールボーイズ

 帰宅してくろべーと再会、世話してくれた友人にお礼を言っておみやげ渡し……って感じで、『カレーライフ』の本番の公演期間中にもそうやって、留守番というかくろべーのお守役を引き受けてくれる方を探してるんですが、誰かいませんかー?